約1000年に及ぶ伝統をもつ日本刀の、高度かつ繊細な技術をまとめ、
日本刀の歴史や制作工程が詳細に分かる本。
たたら製鉄、鍛練、研磨、刀装など各工程で用いられる用具・技術のポイントを図と写真で紹介する。
刀剣を美術品として鑑賞する際に必須の知識として、伝統技術を平易に解説。
日本刀の、時代の変遷による作風形状の変化、原材料となる玉鋼の製鉄から刀工による「鍛冶(鍛錬)」、研師による「研磨」、外装である「拵(こしらえ)」を作る工程では、鞘師による鞘の作製、金工・白銀師による金具作り、柄巻師による柄巻等が各工程ごとに、その手法・材料・道具を含めて詳しく画像入りで説明されており、
日本刀の科学的分析についても豊富な組織写真・図などで解説。
年代鑑定、真贋鑑定などにも役に立つ、刀剣愛好家必携の大変貴重な資料本。
【出版社より】
本書は、永年にわたり日本刀を自分の目で確かめ、調査研究に打ち込んできた著者が、日本刀製作に用いられる鋼の折り返し鍛錬法、心鉄と皮鉄による複合構造形成などの高度な技術の数々を、写真・図版を豊富に駆使して説明したものです。
さらに、刀身の製作技術とともに育まれてきた高度な研磨技術、外装の装飾技術についても詳細に解説しています。
日本刀を美術工芸品として愛好されている方をはじめ、日本刀に関心を持たれる方々にとって絶好の参考書。
【序文】
日本刀は、わが国における独自の形態と機能を備えた武器として生まれ、約1000年に及ぶ長い伝統を持っている。
第二次世界大戦が終了したとき、戦いに敗れたわが国はすべての武器の所有を禁じられ、日本刀も連合軍により押収されることになって、これらの中には幾多の名刀も含まれていた。この事態は日本人にとって血涙の思いであり、中にはこの屈辱から自らの手で国宝の名刀を折る、あるいは海中へ投棄する者さえあらわれた。
そのとき、この悲惨な状態を救うべく本間薫山、佐藤寒山の両氏が中心となって(財)日本美術刀剣保存協会を設立し、武器としての機能を極限まで追求した結果生まれた日本刀の機能美が、きわめて優れた精神的な美の世界へ昇華し、これがわが国の文化の基礎につながっていることを、当時の連合軍へ身を挺して訴えた。その結果、わが国は日本刀の海外流出を最小限度に防ぐことができ、また日本刀を美術品として所持することが可能となった。この歴史的事実は、高度の技術による美術工芸品としての日本刀が、文化を異にする欧米の人びとの心にも通ずる高い精神美の域に達していることの証明であるということができよう。
本書の著者鈴木卓夫君は、本協会の幹部職員として、たたら製鉄、和鉄を中心に日本刀の研究に打ち込んでいる優秀な学究の徒である。今回同君が日本刀に対する情熱を傾注して、たたら製鉄、鍛鎮、研磨、刀装など技術の面から日本刀の全容を科学的に捉え、精絵、悲切に解説した本書を上梓されることは、日本刀を愛する者の一人としてまことに同慶に耐えない。
日本刀は武器としての役目を終えて久しい。しかし、その役目を終えた今日にあっても、なおかつ立派な美術工芸品として新しい立場で高い評価を受けている。このような日本刀のすばらしい伝統技術のすべてを親切、明解に紹介した本書は、読者の日本刀に対する認識をいっそう広く深いものにするに違いない。本書が一人でも多くの皆様のお役に立つことを心から期待するものである。
(財)日本美術刀剣保存協会会長 山中貞則
【はじめに】
日本刀は、我が国において平安時代末期に、世界に比類のない高度な技術をもって完成された武器です。その技術の特徴としては、鋼の折り返し鍛錬法、心鉄と皮鉄による複合の構造、刃文という独特の文様を表現した焼き入れ法、切断効果等を考慮した反りや錆のある姿の開発などがあげられます。
しかし、一口の日本刀が作品として完成するとき、そこには刀身の製作技術とともに育まれた高度な研磨技術や外装の装飾技術があることも忘れることはできません。日本刀をその製作技法の面から見た場合、そこには刀鍛冶(刀匠)を中心として、きわめて多くのプロフェッショナルな職人の集団があって、これらの人びとの技術の集合のもとに初めて一口の作品が完成するところに最大の特徴があるといえます。
日本刀の原材料をつくる、たたら製鉄師、刀鍛冶、研師,鞘師,柄卷師,塗師,鐔・目貫・縁頭などをつくる金具師、さらに金具師にあっては金具の下地造りを専らとする白銀師、そしてそれに色絵・うっとり・象嵌など加飾を施すことを専業とする職人など、まことに多くの、しかも独立した職種がそこには存在します。
したがって、日本刀は、これらの専門家たちによる共同作品であるといってもよいのではないかと思います。
去る平成5年4月,本書の執筆を勧められ、これを引き受けることにしましたが、正直なところかなり悩んだうえでの結論でした。
それはいま述べたように、日本刀の製作はまことに多くの技術の集合によりなされるものであって、はたして非才の私がこれらの多くの技術をどこまで究明できるかに不安があったからです。
多くの友人に助けられ、なんとか執筆を終えましたが、時間的に、鎌をはじめとする広範囲な金具類の製作や刀身彫刻などについて資料の収集が満足に行なえなかったなど、不充分なところも多々あります。読者諸賢のご叱正を得て、将来これらの点を改めていきたいと思います。
この書を読んでいただくことによって、一口の日本刀が完成するまでの多岐にわたる工程と、技術者の多難な努力の姿を知り、日本刀についての理解をいっそう深めていただくことができますなら、私の喜びこれにすぎるものはありません。なお、本書の執筆に際しては、関係方面の多くの皆さまのご助力をいただきました。とくにたたら製鉄関係については安部由蔵・木原明の両氏、作刀関係については吉原義人・吉原国家・河内国平・月山貞利の各氏、研磨については藤代興里氏,外装については高山一之(鞘)・山田芳幸(柄巻,故人)・宮島宏(組)・川之辺朝章(塗)の各氏に多大なご協力をいただきました。また、組の写真資料については、浅井信雄・布袋稷一の両氏の作品を使用させていただきました。ここに記して深甚なる感謝の意を表します。
最後に、この拙い小著に対し、(財)日本美術刀剣保存協会々長山中貞則先生より、過分の序を頂戴いたしました。まことに光栄と存じ、心から厚く御礼を申しあげます。
著者
【著者略歴】刊行当時の情報です
鈴木卓夫(すずきたくお)
1945年神奈川県厚木市に生まれる。
1967年明治大学農学部卒業。
1978年日本大学文理学部卒業。
現在(財)日本美術刀剣保存協会たたら課長、同協会新作刀展覧会審査員,刀剣研磨・外装技術発表会審査員,重要・特別重要刀剣審査員,保存・特別保存刀剣審査員,文化庁刀剣登録審査員(東京都担当),東海大学体育学部武道学科講師(刀剣史).
【主要目次】
1章 日本刀とは
(日本刀の起源 時代による作風の変化 日本刀の魅力,武器の観念を越えた美の世界)
2章 たたら製鉄
(たたら製鉄とは 鉄山略弁にみる製鉄技法)
3章 日本刀を鍛える
(日本刀の素材 日本刀の燃料 鍛治道具 製作工程)
4章 日本刀を研ぐ
(日本刀の研磨のあらまし 研磨にあたっての準備 砥石の種類 仕上げに用いるもの 研ぎ台および付属の用具 研磨の工程 仕上げ)
5章 刀装をつくる
(刀装の歴史のあらまし 鞘の製作工程 柄下地造りと柄巻 鞘を塗る はばきをつくる)
6章 日本刀の科学
(日本刀の化学分析 日本刀のミクロ組織)
付録 日本刀の手入れの方法
(とり扱いの注意 刀の抜き方,納め方 手入れの方法 手入れに用いる道具 手入れの順序と方法)
【目次詳細】
【目次詳細】
第1章 日本刀とは
日本刀の起源
刀剣の種別 日本刀完成期の作品
時代による作風の変化
平安時代末期~鎌倉 / 時代初期 / 鎌倉時代中期 / 鎌倉時代末期 / 南北朝時代 / 室町時代 / 桃山時代 / 江戸時代 / 幕末時代 / 明治時代以降 /
日本刀の魅力、武器の観念を越えた美の世界
第2章 たたら製鉄
たたら製鉄とは
鉄山略弁にみる製鉄技法(播州宍粟郡千草の白鋼を吹く法)
第3章 日本刀を鍛える
日本刀の素材
日本刀の燃料
鍛冶道具
製作工程
水減し / 小割り / テコ棒とテコ台(皿)をつくる / 積み重ね / 積み沸し / 鍛錬 / 心鉄を鍛える / 造り込み / 素延べ / 切先の打ち出し / 火造り / 平安時代末期より鎌倉時代初期の姿を打ち出す / 鎌倉時代中期の姿を打ち出す / 鎌倉時代末期の姿を打ち出す / 南北朝時代の姿を打ち出す / 室町時代の姿を打ち出す / 桃山時代の姿を打ち出す / 江戸時代の姿を打ち出す / 焼刃土をつくる / 焼刃土を塗る / 焼き入れ / 鍛冶研ぎ / 茎仕立て / 銘を切る /
第4章 日本刀を研ぐ
日本刀の研磨のあらまし
研磨にあたっての準備
砥石の種類
下地砥 仕上げ砥
仕上げに用いるもの
研ぎ台および付属の用具
下地研ぎ用具 仕上げ研ぎ用具
研磨の工程(下地研ぎ)
伊豫砥もしくは備水砥で研ぐ / 改正砥で研ぐ / 中名倉砥で研ぐ / 細名倉砥で研ぐ / 内曇刃砥で研ぐ / 内曇地砥で研ぐ /
研磨の工程(仕上げ研ぎ)
刃艶砥で研ぐ 地艶砥で研ぐ
仕上げ
拭いを付ける(または置く) / 拭いを入れる(またはさす) / 刃取り / 磨き / 帽子の仕上げ研ぎ (横手を切る) / 帽子のナルメ / 研磨後の手入れ /
第5章 刀装をつくる
刀装の歴史のあらまし
古墳時代 / 奈良時代 / 平安時代 / 鎌倉時代 / 南北朝時代 / 室町時代 / 桃山時代 / 江戸時代
鞘の製作工程
鞘に用いる木材 / 木取り / 掻き入れ / 糊付け / 荒削り / 中削り / 仕上げ削り / 柄の削り出し / 柄に縁と頭をつける / 鞘に鯉口角と鐺をつける / 櫃をほる / 栗形をつくる / 返り角を据える / 目釘穴をあける /
柄下地造りと柄巻
下地木造り / 鮫着 / 柄糸を巻く /
鞘を塗る
木地がため / 刃棟に和紙革をはる / 錆下地と研ぎ出し / 下塗りと研ぎ出し / 中塗りと研ぎ出し / 衣塗りと仕上げ塗り / 上研ぎ / 胴摺りと油気の拭い / 拭き漆を塗る / 色をつける /
ハバキをつくる
素材の切り出しと火造り / 姿の打ち出し / 呑み込みをつくる / 鑞付け / 鍛造 / 鑢がけ /
第6章 日本刀の科学
日本刀の化学分析
日本刀のミクロ組織
政光のミクロ組織 / 忠重のミクロ組織 / 忠広のミクロ組織 / 長道のミクロ組織 / 国継のミクロ組織 / 匂と沸の組織 / 地沸の組織 / 映りの組織 / 足と葉の組織 / 地景と金筋。 / 砂流しの組織 / 飛び焼きと湯走り /
非金属介在物について
付録 日本刀の手入れの方法
とり扱いの注意
手入れに用いる道具
刀の抜き方、納め方
手入れの順序と方法
手入れの方法
参考文献