八代亜紀は熊本県八代市出身の演歌歌手で、1971年にデビューしました。1973年に「なみだ恋」でブレイクし、「舟唄」など多数のヒット曲を生み出しました。1980年には「雨の慕情」で日本レコード大賞を受賞し、女性演歌歌手としてレコード・CDの総売上枚数で1位の記録を保持しています。また、絵画でもフランスの「ル・サロン」に5年連続入選し永久会員となりました。2010年には文化庁長官表彰を受け、2012年にジャズアルバム「夜のアルバム」を発売し国際的に評価されました。2016年にはモンゴル国より「日本モンゴル文化大使」に任命され、2018年には「北極星勲章」を授与されました。2021年には第42回松尾芸能賞 大賞を受賞し、2023年9月に膠原病の治療のため活動休止、同年12月に永眠しました。2024年2月に熊本県より「県民栄誉賞」、八代市より「八代市名誉市民」を追贈されました。

八代亜紀「なかよし」油彩 4号 2020年作 オリジナル額装 証明シール
「なかよし」（2020年）は、歌手として国民的な支持を集めながら、画家としても確かな才能を発揮した八代亜紀による、愛情とやすらぎに満ちた一作です。画面中央には、赤い箱の中で寄り添う二匹の子猫が描かれ、穏やかで柔らかなまなざしを向ける姿からは、互いを思いやる気持ちや無垢な信頼関係がにじみ出ています。小さな体を寄せ合う姿は可憐でありながら、観る者の心にそっと寄り添うような温もりを感じさせ、タイトル「なかよし」の意味をそのまま視覚化したような愛おしい光景となっています。背景はブルーからグリーンへとゆるやかに変化する澄んだ色彩で構成され、柔らかく広がるグラデーションが、静かな時間の流れや透明感のある空気を印象づけています。空中に浮かぶシャボン玉は、子猫たちの無邪気さや夢見るような心象世界を象徴し、作品全体に軽やかな動きを添えています。鮮烈な赤の箱が画面のアクセントとなり、子猫の可愛らしさと背景の静謐さの対比が、八代亜紀独自のやわらかな世界観をより際立たせています。

八代亜紀は、演歌の名曲「なみだ恋」「舟唄」「雨の慕情」などで幅広い世代に親しまれながら、一方で画家としてもフランスの「ル・サロン」に5年連続入選し永久会員となるなど、高い芸術性を国際的に評価されてきました。彼女の絵画には、歌の世界で培われた豊かな情感や、人々の心に寄り添ってきた人生経験が深く反映され、優しさと包容力を感じさせる表現が随所に見られます。本作もまた、その感性が遺憾なく発揮された一枚であり、観る者の心をやわらかく癒す普遍的な魅力を湛えています。2020年という制作年からも、八代亜紀が“癒し”や“安らぎ”を改めて大切にしていた時期であることが伝わり、作品全体が温かなメッセージとして響いてきます。「なかよし」は、ただ可愛らしい猫の絵というだけでなく、八代亜紀が絵筆を通して届けた優しさと希望の象徴でもあり、彼女の画業の中でも心に残る一作と言えるでしょう。