藤井路夫（Michio Fujii）は1964年京都府生まれの洋画家。13歳から独学で油彩画を描き始め、14歳で初個展を開催。京都精華大学美術学部を卒業後、アメリカ・ニューヨークに滞在し、1999年以降はスペイン、フランス、イタリア、トルコなどに隔年で渡欧。2001年以降、各地で個展を開催し、近年では日本橋三越や仙台三越（2020年）、福岡三越（2021年）で発表。滋賀県東近江市在住で、辻真砂に師事。現在のアトリエ小屋に籠り20年以上、油絵を描き続け、積乱雲の空、琵琶湖の木舟、ローカル線の沿線、鳥海山麓の伏流水などを題材に、畏敬の念を込めて描く。表現手法の創意工夫を重ね、深みのある絵肌や重厚感のある表現を追求し、現地に吹く風を感じさせる作品を生み出している。

藤井路夫「風煙」油彩 6号 2013年作
赤いランドセルを背負い、少女はひとり、白く煙る畦道を歩いている。藤井路夫の油彩画《風煙》は、何気ない日常の一瞬に宿る詩情と、記憶の奥にある郷愁を鮮やかに描き出した作品です。画面は、霧または煙に包まれた農村風景。遠くの山々や木々は淡くかすみ、舗装のない道には湿り気を帯びた光が静かに降り注いでいます。その中を、背中に赤いランドセルを背負った小さな少女が、ゆっくりと車のある方向へと歩いていく。今しがた学校からの帰り道なのか、それともどこかへ向かう小さな旅の途上なのか。画面には説明されない物語が漂い、観る者の心にそれぞれの「帰り道」の記憶を呼び起こします。

藤井路夫は、1964年京都生まれの洋画家。13歳から独学で油彩を始め、京都精華大学卒業後はニューヨークやヨーロッパを渡り歩き、現在は滋賀県東近江市のアトリエで制作を続けています。積乱雲の空や湖畔、ローカル線沿いの風景など、日本の原風景をモチーフに、自然と人との関係性を静かに見つめるような作品を多く手がけてきました。《風煙》というタイトルが示すように、この作品では“風にたなびく煙”のように、つかの間に現れては消えていく情景と感情が描かれています。重ねられた油絵のマチエールは、空気の揺らぎや光の層、そして時間の厚みをも感じさせ、少女の小さな背中からは、ただの“風景”ではない、内面の物語が静かに立ち上がってきます。何げない帰り道に潜む孤独、やさしさ、安心感、そしてほんの少しの不安。そのすべてを、藤井はこの静謐な構図と繊細な色使いで描き出しました。《風煙》は、観る者それぞれの心の風景と静かに響き合う、深く味わい深い一枚です。