本書は、「日本のアニメーションにおける背景美術」というテーマで制作・執筆しました。「デジタルで作業している背景美術の現場で背景を描く時には、例えばこういう手順で作業しますよ」という手引き書的な種明かし本を、微力ですがご用意させていただきました。
「背景美術に興味があるけれど、よくある技術書や解説書では書いてあることをどのようなシチュエーションでどう応用するのかがわからない…」「もうちょっとステップ・バイ・ステップで展開する手引き書があればいいのに…」という声にお応えすべく、デジタルツールで描いた背景のサンプルパターンを5つ用意しました。
当然、アニメーションの背景美術という意味では、もっと押さえるべきことは山ほどあります。というより、実際の現場では日々カットごとに違った場所、違った季節、時間、ムード、空気感、照明など、それぞれの作品の演出意図に合わせて、キャラクターたちがイキイキと芝居ができる舞台を底なしに作り出すのが背景美術の仕事ですので、ここですべてを出し切るのは難しい話です。
さらに言えば、この一冊を理解すれば明日から背景が描けるというものでもありませんし、そんなうまい話は幻想です。
本書は眺めるだけでも良いのですが、不慣れな人でも進められるように構成してありますので、まずは一度描いてみることをおすすめします。
描くことで、文章では書ききれない部分を体で感じていただけるかと思います。
とりあえず、サンプルを模写して自分の描いたものと見比べながら練習してみてください。
現場のスタッフでも、新人のうちは、まず壁などのグラデーションやちょっとした小物、単純な室内など、簡単なモノから描かされます。
最初から大変な仕事を任される人は稀ですので、もし、あなたが不慣れな場合で上手くいかなくても、気にせずに何度もやり直しながら慣れていくとよいでしょう。
そして、物足りなくなったら夜の風景や自分の部屋や家など、自分の描きたいものを描いてみるとよいでしょう。
まずは、描き始めないと何も始まりません。本書が、そのためのきっかけ作りとなれば幸いです。
初めて背景を描く方、アナログからデジタルへ乗り換える方、これからデジタルツールで絵を描く方、その他すべての方にとって、本書が参考になりますように。