伊東深水（1898年2月4日生～1972年5月8日没）は東京深川生まれの日本画家で、本名は伊東一、鏑木清方に師事した。昭和8年第14回帝展審査員、昭和22年度日本芸術院賞受賞、昭和33年日本芸術院会員となるほか、朗峯画塾を主催し後進の育成にも尽力、青衿会や日月社の顧問を務めた。評価としては、近代的美人画様式を創出しつつ通俗視されがちな中でも常に表現に安住せず、より高い評価に値する画家とされる。特筆すべき作風は、豊かな色感と確かな線描による明快な画面を特徴とする美人画で知られるが、初期は労働者や乞食、新聞配達など社会の下層階級を描き、また木版画や肖像画、風俗画、歴史画、古典画にも意欲を示し幅広い制作を行った。

伊東深水「庭前の夏」日本画 50号大 大作 金泥 共板 東京美術倶楽部鑑定書付
本作《庭前の夏》は、近代美人画の巨匠・伊東深水による、夏のひとときを静かに切り取った気品あふれる大作です。庭先の縁台に腰掛けた女性を横顔で描き、伏し目がちの穏やかな表情と、涼やかな水色の着物が、初夏の澄んだ空気感としっとりとした情緒を美しく伝えています。足元や周囲には、墨の濃淡とにじみを生かして草花が表され、余白を広く取った画面構成によって、静寂と湿度を含んだ夏の庭の気配が、詩情豊かに表現されています。

伊東深水特有の、豊かな色感と確かな線描による明快な画調が本作にも存分に発揮されており、女性の佇まいの中に、静かな内面性と気高い美しさが自然ににじみ出ています。作品は縦長126.7×30.8cmの50号大という堂々たる画格を誇り、床の間を格調高く彩るにふさわしい存在感を備えています。東京美術倶楽部鑑定書も付属した、伊東深水芸術の魅力を正統に伝える、格調高い逸品です。