ELGAR: PIANO QUINTET IN A MINOR, Op. 84LEONARD CASSINI (Piano)THE AEOLIAN STRING QUARTET(SYDNEY HUMPHREYS & RAYMOND KEENLYSIDE - Violins;WATSON FORBES - Viola; DEREK SIMPSON -'Cello)BAX: LEGEND FOR VIOLA AND PIANOWATSON FORBES (Viola)LEONARD CASSINI (Piano)summit TLS 6053 STEREOPHONICエドワード・エルガー畢生の名作、ピアノ五重奏曲は現在では数種のCDで聴くことができるが、THE AEOLIAN STRING QUARTETとLEONARD CASSINI ピアノ五重奏曲の当LPが、初演のSTRATON QUARTETと閨秀H. CohenによるSP録音(LP復刻盤:英Imprimatur DIMP-1)に次ぐ史上二番目の録音である。本四重奏団はメンバーにSTRATON QUARTETと同じビオラ奏者のWatson Forbes、チェロ奏者のDerek Simpsonを擁し、STRATON QUARTETを承継した作曲家の意図を精確に伝える歴史的録音である。エドワード・エルガーが山荘「ブリンクウェルズ」で作曲した室内楽作品、ヴァイオリンソナタ、弦楽四重奏曲そしてこのピアノ五重奏曲には彼の他の曲種の作品と同じく優美な旋律が流れるが、それに加えていずれ室内楽作品にも憂愁の色が濃く漂う。エルガー研究家の水越健一氏はこれらの室内楽作品について「どれもこれも郷愁と懐古に満ちた白鳥の歌を思わせる清らかさを持っている」と書いておられるが、なかでも一度耳にするやその調べは肺腑に沁み込んで忘るべくもないのがピアノ五重奏曲の緩徐楽章の旋律である。以前、といっても録音から20余年が過ぎたが、ソレル弦楽四重奏団とイアン・ブラウンのCDが発売された際に、故濱田滋郎氏が「・・・、『五重奏曲」の第3(2?)楽章などは、かつて書かれた室内楽の緩徐楽章中でも、白眉と呼びたい魅力を湛えている」と認めておられたが、本LPのライナーノーツ(by PETER J. PIRIE*)には”The serenity of this sublimely beautiful(E major)movement - surely one of the loveliest in all chamber music-"、『全室内楽曲のなかでも最も甘美なもののの一つ』と誌してある。*英国屈指の博学多識の音楽学者で、英国音楽とりわけバックスとフランク・ブリッジについて造詣が深い。併収されたバックスの《ビオラとピアノのためのレジェンド》は、彼が同郷の巨匠ヴィオラ奏者、ライオネル・ターティスの名人技に天啓が閃き、作曲した《ヴィオラ・ソナタ》(バックスがピアノ伴奏した歴史的録音がLPに残されている⇒ジャケット写真添付)、《ハープとヴィオラのための幻想曲》《ヴィオラとオーケストラのための幻想曲》等の大作に連なる小品である。またヴィオラの音色はバックスの作品の真諦を顕現させるのに理想的なものであり、時に狂熱的で、またある時はロマンティックで、また神秘的で不吉な兆候を仄めかしたりすることも出来る。また一方、ピアノ書法は常に色彩に富んでいる。この珠玉の小品は憂愁の響きで魂を打ち震わせたあとは澄み渡った透明感を漂わせて終わる。尚、収録作品二曲において磨き抜かれた練達の技巧で藝術性に溢れた絶妙の協演を行っている英国のピアニスト、レオナード・カシーニ(1913~1999)は、上記バックスのヴィオラ・ソナタをダウンズのヴィオラを伴奏して名演を遺して入るおり(英delta⇒写真添付)、彼がアラン・ラヴデイと録れたベートーヴェンのクロイツェル・ソナタは、英国内では最も好ましい録音の一つとして決定盤的評価を得て弦楽マニア垂涎の一枚となっていた。また彼はオペレッタのプロデューサーとしても令名を馳せる等多彩な音楽活動を行っていた異能の音楽家だった。当LPの盤面には目立った瑕等は全く見られなが、クインテットの第二楽章で微かなティック音が聴かれたが殆ど気にならないレヴェルである。尚、この稀覯貴重LPレーベル、英summitの社主、Mr. W.H.Barrington-Coupeはかの閨秀ジョイス・ハットーの夫で当歴史的録音の復活見込みはない。