今月出品できる布は、これでおしまいです。
高温多湿の熱帯地方インドネシアで100年以上も前の染織は、本当に残っていないものです。この布は、19世紀末の古布であることを100%保証します。
これは、インドネシア スマトラ島南部 ランプン州(クルイ地方)の「タンパン」という祭儀用布です。結納品の包み布や新築の際に梁の上に置く魔除け布などとして用いられました。中央部分は、非常に緻密な縫取織がほとんど隙間が無いほどびっしりとなされています。専門書インドネシア染織体系に掲載されている布(10枚目画像)と比較していただければ、この布の緻密さがお分かりいただけると思います。約56×50㎝(2枚目画像)と所載の布(45.5×42㎝)とより、大きさもあります。天然染料、手紡ぎ糸で、6枚目繊維のアップ画像から時代のある布だと分かります。
「スマトラ タンパン」(Sumatra tampan)で検索しても、時代のあるタンパンは、博物館所蔵のもの以外ほとんど出てきません。特に、赤色中心のこの霊船文様のタンパンは、あまり無く評価の高い布です。
タンパンの評価は、文様構成と織りの緻密さにあります。このタンパンを選別してコレクションに入れていたのは、飾って絵になる緻密な文様であるからです。
浮織で織り込まれている文様は、死者の魂を天上界に運ぶ霊船で、霊船布と呼ばれます。霊船文様の中心には、宇宙木が表されており、船には人物、鳥、家畜等(3〜5枚目画像緑色で囲み)が乗っています。人像文は、祖先を象徴しています。
タンパンは通常、その用途から、ボロボロになって一部しか残っていないことが多いものです。このタンパンは、傷み(2分割画像の8、9枚目囲み部分)があるものの、全て補修されています。ごく小さな傷みも補修されているので、大切に使われてきた布なのでしょう。一番大きい傷みは、8枚目画像の左下の青く囲んだ箇所です。裏側の画像(7枚目)と併せて状態をご確認ください。この布の時代を考慮すると、全体が残っており、鑑賞を妨げる傷みではなく、許容範囲かと思います。他に、透かして分かる経年による繊維の摩耗や汚れがあります。タンパンには時代の下る写しも多く注意を要する布ですが、上記の傷みも長い歳月を経てきたオリジナルである証と受け止め、古布にご理解のある方のみ、ご入札をお願いいたします。
これほど時代のあるインドネシア染織には、今では出会えないものです。特に、この色合いの霊船文様のタンパンは、残っていません。昔のコレクション整理のため、大変リーズナブルかと思います。プリミティブな布がお好きな方がいらっしゃいましたら、よろしくお願いいたします。
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