深沢邦朗（ふかざわ くにろう、1923年5月23日－2009年1月8日）は、埼玉県生まれの童画家で、川端画学校洋画科を修了しました。第二次世界大戦に従軍し戦地でも絵を描いた後、1960年に小学館絵画賞を受賞し、1975年には自ら設立した現代童画会の初代会長となり、後に退会して1983年に童画芸術協会を設立し会長を務め、生涯を通じて同会を主導しました。代表作としては、高級クッキーセット「チボリーナ」のパッケージに採用された丸い顔の少女のイラストが広く知られており、同様の少女像は共同募金ポスターや雑誌「一枚の繪」にも繰り返し登場しました。これらの少女画には特定のモデルは存在せず、深沢独自の創作によるものとされています。また、絵本の挿絵画家としても活動し、『みつばちぶんぶん』（1963年）、『ふしぎなかね』（1967年）、『おおくまぼし』（1981年）などを手がけ、童画を中心に多彩な作品を生み出しました。作風は愛らしい少女像を中心にしつつ、童画としての柔らかさと親しみやすさに特徴があり、戦後日本の童画界で独自の地位を築きました。

深沢邦朗「春花譜」油彩 10号 1999年作
童画界の第一人者として、愛らしい丸い顔の少女像（チボリーナなど）で広く知られる深沢邦朗画伯（1923-2009）。本作『春花譜』は、画伯の円熟期にあたる1999年に手がけられた、従来の童画のイメージとは一線を画す稀有な側面を示す油彩画です。画伯が川端画学校で修めた洋画の素養を感じさせる本作は、写実的かつ耽美的な表現が際立っています。頭上の麦わら帽に溢れる豪華絢爛な花々は、タイトル「春花譜」の通り、春の生命の記録と絶頂を象徴しています。

陶器のような滑らかな肌を持つ少女の横顔は静謐な美しさを放ち、肩の小鳥や宙を漂う花のモチーフは、画伯が追求したロマンティシズムを、より詩的で洗練された形で昇華させています。深みのある背景と鮮やかな色彩のコントラストは、この作品が単なる童画ではなく、画伯が晩年に至り、純粋な美術表現の奥深さを追求した、格調高くも神秘的な一作であることを物語っています。