インナーゾーン・オーケストラは、米国デトロイトのテクノ第二世代を代表するアーティスト、カール・クレイグによるプロジェクトです。彼は、テクノ第一世代のデリック・メイの弟子筋にあたります。クラブ系の音楽はロックと違って、わりと徒弟制のような人的つながりがあって面白いですね。
カール・クレイグは、さまざまな名義で活動していまして、インナーゾーン・オーケストラもその一つ。アルバムとしてはこれが唯一の作品です。しかし、最初にこの名前で発表したのは92年の「バグ・イン・ザ・ベース・ビン」という曲で、ロンドンのDJが本来33回転のところを45回転でかけたところ大きな話題となったという逸話が残っています。
その曲は、一応テクノなのでしょうが、生演奏を大きく取り入れたジャズ的なサウンドが特徴です。その頃から徐々にクラブ・ミュージックの世界では、フューチャー・ジャズと呼ばれるほとんどジャズな動きが活発になってきます。彼はその先駆になったわけです。
このアルバムには、その「バグ・イン・ザ・ベース・ビン」も収録されていまして、彼の生演奏とコンピューター融合路線の集大成となっています。ただ、彼はこのアルバム発表前に、ドラム、ベース、シンセの3人編成のバンドとしてツアーも経験しており、そこから予想されたサウンドとしては、まだテクノよりになっていると言えます。
さて、アルバムは作者不明のインナー・スリーブに書いてあることを真に受けると、最低映画の呼び声も高い「吸血鬼ブラキュラ」をモチーフにした物語となっています。この映画はドラキュラの呪いを受けて吸血鬼になった黒人王子の物語です。
このアルバムには、「ブラキュラ」という曲もありますし、ミュージシャンのクレジットに「ブラキュラ」という人も書かれています。後者はおそらくカール本人でしょう。物語は、ブラキュラが覚醒して、暴れまくって、最後は宇宙に飛び出すけれども、宇宙船にバグがあったというあらすじです。
まあ、あまり真に受けるのもやめましょう。大たい、一曲目は実際に彼にかかってきた間違い電話のメッセージですが、この物語の中では、そのメッセージの宛先となった女性がブラキュラの夜のお食事にされてしまうというような展開ですからね。
サウンドは、ほどよく生と電気が混ざっています。伝説のジャズ・バンド、サン・ラーでドラムを叩いていたフランシスコ・モラの活躍が目立ちますし、バイオリンやピアノなどのサウンドも実に巧妙に配されています。ジャズ、ハウス、ファンク、ソウル、ヒップホップなどの要素がぶち込まれていて、見事です。
カバー曲はフィリー・ソウルの大御所スタイリスティックスの大ヒット「ピープル・メイク・ザ・ワールド・ゴー・アラウンド」と、ラテン・ファンクのこれまた大御所ウォーの「ギャラクシー」の2曲です。どちらもオリジナルとは随分違いますが、いい味だしています。
私はテーマ曲「ブラキュラ」が好きです。バイオリンの音色もさることながら、ベースが入ってくるところなど鳥肌が立ちます。他の曲も含めて、センスあふれるサウンド・プロダクションは聴き飽きることがありません。素晴らしいです
試聴のみ。ケースに汚れは見られますが、盤面は大変綺麗な状態です。
邦盤。ボーナストラック収録。
解説、帯付き。
サンプル。