
新書です。 きれいなほうです。
テロリストはネットやTVなどのメディアで存在をアピールし、主義主張を宣伝する。メディアはそれを報じ、PVや視聴率、部数を稼ぐ。これはもはや“共生”どころか“共犯”関係である。あさま山荘事件、アメリカ大使館人質事件、地下鉄サリン事件から直近の安倍晋三元首相、岸田文雄首相襲撃事件までテロの歴史を俯瞰し、“負のスパイラル”を脱する道を探る。大きな話題を呼んだ原著に大幅な加筆をした決定版。
マスコミとテロリストは「共犯者」ではないか
【目次】
序 章 安倍元首相銃撃事件がもたらしたテロリズム新時代
第一章 「撃つなアブドゥル! まだゴールデンタイムじゃない!」
第二章 北京オリンピックは「テロの舞台」だった
第三章 テロリズム時代の到来――9・11テロ事件とオウム
第四章 政治的コミュニケーションとしてのテロ――一九七〇年代以前
第五章 恐怖と不安を充満させるテロリズム――一九八〇年代
第六章 テロとメディアの共生関係――一九九〇年代
第七章 政府・企業による監視社会へ――二〇〇〇年代
第八章 テロリズムに対してメディアはどうあるべきか
終 章 根本療法が求められるテロ対策
あとがき
参考文献
【本文より】
序 章 安倍元首相銃撃事件がもたらしたテロリズム新時代
要人暗殺テロの復活~安倍元首相銃撃事件
2022年7月8日、奈良県奈良市の近鉄大和西大寺駅の駅前で参議院選挙の応援演説を行っていた安倍晋三元首相が、大勢の聴衆の前で、そしてテレビカメラの前で銃撃され死亡した。その様子はテレビカメラマンや新聞記者のカメラにリアルタイムで撮影され、テレビやネットを通じて世界に報道された。同時に大勢の聴衆がかまえたスマホの写真によって、そして動画によって撮影され、SNSを通じて世界に拡散された。
アジアで唯一のG7メンバーである日本という民主主義国家において、元首相が聴衆の面前で殺害されるというショッキングな事件は、世界中で報道されインパクトを与えた。その日からこの事件は日本のテレビや新聞、ネットなどメディア報道で連日カバーされ、数か月にわたってニュースやワイドショーはこの事件の報道でジャックされるというメディアスクラム(集団的過熱報道)と呼べる現象が発生した。
筆者は事件当日の7月8日から、危機管理の専門家、テロ対策の研究者として世界各国のメディアから取材を受けた。安倍元首相が銃撃された当には、新聞やテレビなど8社からの取材を受けたが、まずその質問のほとんどは、現場の写真を見て、この容疑者が持っている凶器は何か、ということであった。新聞社がメールで送ってきた画像は、現場の記者が撮影した、容疑者の持っていた凶器が拡大された写真であった。
筆者はその画像をみたとき、直感的にこれは手作りの散弾銃だと考えた。筆者は若いころからモデルガンやサバイバル・ゲームを趣味としていて、危機管理学、安全保障の研究の傍ら、こうした銃器についても趣味と実益を兼ねて関わってきた。(略)
事件の翌日以降、メディア報道の焦点は、手製銃がどのように製造されたのか、その材料の購入と規制に移行した。元首相を暗殺できるだけの武器は、本当に市販の材料で手作りできるのか、そんなリスクが日本社会にあるのかという不安を市民にき立てた。