ZSTLES IN CASTILE
Edouard Lalo Symphonie Espagnole
Ricard Odnoposoff, violin
with The New Symphony Society conducted by Walter Goehr
Nicholas Rimsky-Korsakov Capriccio Espagnol
The New Symphony Society conducted by Victor Desarzens
THE CROWELL-COLLIER RECORD GUILD
RG-113
Copyright C-C Clubs, Inc., 1957
伝説の巨匠オドノポソフ(Ricardo Odnoposoff、1914.2.24 ブエノスアイレス~ 2004.10.26 ウィーン)によるラロの《スペイン交響曲》の録音盤について、かつて本邦の弦楽ファンのバイブル的存在だったヨーアヒム・ハルトナック著(松本道介訳)『二十世紀の名ヴァイオリニスト、白水社、1971年』に彼の「藝術感覚」に言及しつつ次のやうに高く評価している。
『・・・オドノポソフのレコードは一般には売られていない。しかし、レコード・クラブと契約を結ぶことはすべての人に可能ではないにせよ、ここで「ミュージカル・マスターピース・ソサエティ」から出た彼のレコードの二枚について述べておきたい。つまりそれらは、このヴァイオリニストの芸術家としてのなみはずれた幅の広さを示すものである。・・・それは(註:ヴィヴァルディのソナタの録音)彼より有名なヴァイオリニストたちと比較してもなんら恐れる必要のない演奏なのである。
このことはオドノポソフのラロの名作の吹込みについてもいえる。このレコードでオドノポソフのもうひとつのーおそらくは、より独特でさえあるー芸術感覚が明らかにされる。なぜなら彼はここで、演奏技術および演奏解釈の点において、ほとんどハイフェッツの域の近くまで行くようなジプシー的要素を展開させているからである。両端楽章の隙のない流暢さ、またアンダンテの、みずみずしく豊かにみたされ、しかも普通によくみられる緩徐楽章の表面的な、メロドラマ的な軽い扱いとははるかに異なった音楽的徹底性、こうしたすべてが、世界第一級の演奏をもたらすのである。』
『1937年のエリザベート・コンクールでオイストラフと覇を競ったヴァイオリニスト』というイントロでいつも紹介される名匠オドノポソフ、戦前のコンクール結果を経歴紹介の冒頭のクリシェとされていることには本人もさぞ辟易していることだろう。戦後はコンサートホール・ソサエティレーベル専属となり主な協奏曲については殆ど録音しているが、同レーベルがマイナーな会員組織であるうえ、その多くが10インチのモノラル盤で録音と盤質が十全でないこともあって、彼ほどのヴァイオリニストなら当然受くべきと思われる評価が与えられてこなかった。事実、彼が85歳を迎えた1999年にICRC(Summer 1999)に”The mean fiddler"と題したオドノポソフに関する特集記事(by Stephan Bultmann)の冒頭のくだりにもそのことが述べられている。
”One of the last representatives of the golden age of violinists, Ricardo Odnoposoff, celebrated his 85th birthday in February. According to the late Los Angeles critic and violinist Henry Roth, Odnoposoff was one of those great fiddlers who did not enjoy the career he deserved."
ちなみに文中のHenry Rothは英国のヴァイオリン専門誌《The Strad》のレギュラー・コントリビューターでヴァイオリン評論の一人者である。
1990年代に入り世界的にLPのCD復刻が益々活発化するなかで、突如、コンサートホール・ソサエティのLPの中でもハイブロウな弦楽ファン垂涎の音源に加えそれまで未発表だったものも含め陸続と瑞西DORONレーベルでCD復刻され始めた。そのなかにはペーター・リバールととも、このラロを含むオドノポゾフの協奏曲録音が数多く含まれており、それらのCDにより改めて彼がオイストラフ級の超一流の実力の持ち主であることを世界の楽壇が再認識することとなった。また瑞西DORONに遅れじと獨BAYERからも次々とオドノポゾフのリサイタルのライヴ録音CDが発売された。またかつてから幻の稀覯LPとして探求されてきたシューベルトのソナチネ集がCD復刻されファンを狂喜させた。
当出品LPはコンサートホール・ソサエティを買収した米CROWELL-COLLITER社が1957年がオリジナル・テープから12インチLPにリカッティングした会員限定頒布レコードである。その音質は鮮明さ、ダイナミズム、S/N,弦の音色の艶やかさと肌目細かさ等、ミュージカル・マスターソサエティ(MMS;コンサートホールソサエティのサブ・レーベル)の10インチ盤とは比較にならない。オドノポゾフもオリジナル盤から飛躍的に改善された12インチ盤の再発(他にブラームスのヴァイオリン協奏曲盤があった)に喜んだのかもしれないが頒布枚数も限定されオドノポゾフの再評価には殆ど貢献しなかったやうである。
当出品LPには《”Castle in Castile”:カスティリャの城郭》”(註:カスティリャは中世イベリア半島の王国)のタイトルと、ジャケット写真にそのタイトル通りの威容を誇るスペインの城郭、我が国のディズニーの城のモデルにもなったアルカサル・デ・セゴビア(Alcazar de Segovia)、の写真が使用されているが、その企図というべきものをライナーノーツの『この作品にはスペインのロマンスを夢見てカスティリャの城郭の幻想を抱く者たち誰もが、動的な情感で胸をときめかせざるえ得ない音画が眼前に広漠と拡がるのだ』とのくだりから推察することができる。併収されたリムスキー・コルサコフの《スペイン奇想曲》は、当時一世を風靡したスペイン趣味という共通の歴史的背景を共有し、スペイン風の主題によるヴァイオリンと管弦楽のための幻想曲として構想が練られた作品であり、ラロのスペイン交響曲のオッドサイドを占める作品に相応しい。
当出品レコードは両面とも美麗で目立つやうな瑕は全く見当たらずニア・ミントレヴェルで、試聴するも針瑕等によるクリック・ノイズ等は全く聴かれなかった。ジャケットはシーム割れをテープ補修してあるなど経年の傷みが見られるが破損滅失箇所等は皆無である。