宮本三郎（1905-1974）は石川県生まれの洋画家で、日本芸術院会員、二紀会理事長を務めた。川端画学校で藤島武二に学び、のちに安井曾太郎に師事し、二科会展に出品。太平洋戦争中は陸軍報道班員として従軍し、「セレベスの落下傘部隊の激戦図」「山下・パーシバル両司令官会見図」などの戦争画を制作。戦後、二科会を離れ、同志と二紀会を結成し、その中心的存在として運営に尽力。1958年には日本美術家連盟の初代理事長に就任し、美術家の社会的権利擁護にも貢献。晩年には写実性と華麗な色彩を融合させた舞妓や裸婦の連作を制作し注目を集めた。優れた素描力を評価され、新聞小説の挿画も手掛け、獅子文六作『南の風』（朝日新聞連載）、石川達三作『風そよぐ葦』（毎日新聞連載）などで広く読者に親しまれた。1974年10月13日、腸閉そくのため69歳で死去。

宮本三郎「裸婦」油彩 8号 宮本文枝鑑定シール
宮本三郎画伯の本作は、華やかな色彩と力強い筆致によって、生命感あふれる美を表現した作品です。画面中央には、柔らかな曲線を描く裸婦が横たわり、その肌の質感は繊細でありながらも、周囲の鮮やかな色彩と調和するように描かれています。 裸婦の下に広がるのは、赤を基調とした装飾的な布。その模様は単なる背景ではなく、画面全体に動きとリズムを生み出し、裸婦の静かな佇まいと対照的な効果をもたらしています。赤の色彩は官能性や情熱を感じさせるとともに、宮本が得意とした華麗な色の響きを見事に体現しています。

宮本三郎画伯は戦前から優れたデッサン力を持ち、戦争画や挿絵も手掛けましたが、戦後は色彩と造形の探求に力を注ぎ、舞妓や裸婦といった題材を描き続けました。本作もその流れを汲み、単なる写実にとどまらず、色彩の持つ豊かな表現力を最大限に活かした作品となっています。 静かに横たわる裸婦と、華やかな布が織りなす幻想的な世界。宮本三郎画伯ならではの色彩の美しさと、人体表現の卓越した技術が融合したこの作品は、観る者に強い印象を与える一枚です。画伯の貴重な裸婦画の大名品です。