図録・写真解説本 近江の仏像 仏教美術 文化庁監修
至文堂
1985年発行
98ページ
約23ｘ18.5ｘ0.8cm
監修 文化庁・東京国立博物館・京都国立博物館・奈良国立博物館
執筆・編集 西川杏太郎
巻頭口絵写真カラー
本文モノクロ
※絶版
近江は古くから中央とのつながりが強く、比叡山延暦寺や園城寺などの天台密教の拠点が設立され、多くの仏教寺院が建てられた地域。近江では、荘園制度の衰退や戦乱の影響で一部の寺院が廃絶し、仏像だけが地元の小さな堂に祀られるようになった。これらの仏像は地元の人々によって大切に保護され、美しい古の姿を持つものが多い。滋賀県は、国の重要文化財に指定されている古彫刻が多く、特に平安時代の作品が最も多い。本書では延暦寺や園城寺、石山寺などの大寺院ではなく、他の中小の寺院で永く里人に守られてきた平安時代・鎌倉時代の仏像を中心に100余点紹介し、近江の仏像の特徴とその魅力を探るもの。
仏像を中心とする古彫刻で、国の重要文化財に指定されているものを府県別にみると、最も多いのは奈良の469件で、滋賀県はこれに次ぐ371件を数え、京都の368件より多く、近江の仏像は再び注目を集めている。（刊行当時の情報です）
巻末には、近江の仏像にみられる「素地截金（きりかね）・鉈彫・飜波式衣文」の技法について、「琵琶湖をとりまく文化と生活」では、地域の秘仏を前にした神事「おこない」など信仰厚い近江地域特有の豊かな民間信仰文化を解説。
小ぶり・本文はモノクロ図版が中心でありながら二段組テキストで、
131点もの豊富な写真図版と、解説、関連資料など、
仏教絵画・密教図像研究の第一人者による解説論考は、
内容充実、情報満載の研究書となるもの。
日本の仏教美術・密教美術・仏像・古美術鑑賞に欠かせない知識満載の大変貴重な絶版図録解説本。
【目次】
はじめに
己高山の古仏たち
湖北・湖東の平安古像
櫟野寺・金勝寺・善水寺の古仏
湖南地区の古像
近江の藤原仏
一木造りの伝統
都作の普及
鎌倉新様式と近江の仏たち
図版目録
図版解説
近江地方の主要社寺
素地截金・鉈彫・飜波式衣文など―用語觧説にかえて― 西川杏太郎
琵琶湖をとりまく文化と生活 成城大学教授 田中日佐夫
参考文献
【編者について】西川杏太郎
日本の美術史研究者。専門は日本彫刻史、文化財保存学。父は、書家で昭和の三筆の一人に数えられた西川寧。
東京市（現墨田区）向島の生まれ。1950年(昭和25年)、慶應義塾大学文学部文学科(芸術学専攻)卒業。翌年、文化財保護委員会(現・文化庁)に入り、文化財保護部美術工芸課長、文化財調査官、東京国立博物館次長を経て、1987年(昭和62年)4月、奈良国立博物館館長、91年東京国立文化財研究所の所長を歴任。退官後に、横浜美術短期大学学長、神奈川県立歴史博物館館長。
日本仏教の美術、 美術工芸品の保存と保管〔特装本〕、 仏教美術の広がり、 密教の美術、 釈尊の美術他多数執筆。
【作品解説文 一部紹介】寸法掲載
薬師如来立像（鶏足寺）
近江国の鬼門にあたり、古代、霊山として栄えた湖北の己高山法華寺の本尊であったと推定される等身の薬師如来像。８世紀末の制作と考えられ、一木造りの像身に厚手に漆箔を行っているため、天平時代の木心乾漆像のような柔かく、のびのびした大らかな気分に満ちている。量感も豊かで堂々とした姿を示し、近江における現存最古の仏像として有名である。（像高181.6cm)
十二神将像（三躯 鶏足寺）
薬師如来像と共に伝えられてきた十二神将の像で、いまは三躯だけが残っている。足下の岩座までを含み檜の一木から彫出し、表面に木屎漆をモデリングして仕上げた木心乾漆像である。いま片腕あるいは両腕を失っているが、像のバランスは良く整い、細部のモデリングも的確で、いかにも乾漆像らしい柔軟な肌を示した美しくまとまった像である。これも８世紀末の制作と考えられる。
（像高87.0～94.8cm)
薬師如来坐像（善水寺）
善水寺は湖南における有名な天台の古寺で薬師如来坐像はその本尊である。
檜材一木造、顔も肩も膝もずんぐりした丸みを持ち、愛らしい顔立らを示すが、像内に納めてあった墨書の造像願文によって正暦四年(993)に造られたことがわかる。日本の彫刻史研究上の基準作として重要である。この寺には
他に十体の平安彫刻が残されている。（像高102.5cm)
十一面観音坐像（櫟野寺）
湖南の三重県境に近い甲賀町の櫟野寺の本尊である。最澄が霊夢に従って櫟の大木でこの像を刻み寺を造ったと伝える。像は檜の一木から刻み出した像高３メートルを越す巨像で、堂々たる顔立ちや部厚い体部をもつ。近江における平安古像の中でも最大の作例である。
10世紀後半の制作と考えられる。（像高312cm）
十一面観音立像（渡岸寺観音堂 向源寺）
近江彫刻の代表作であるばかりでなく、貞観彫刻の名品として名高く、「渡岸寺の十一面」の名で親しまれている。檜の一木造りで、彩色せず素地の美しさをそのまま残して仕上げ、バランスよく、力強く弾力のある肉身を切れ味も見事に彫り出し、官能的な趣がある。頭上や顔の両脇につけた十一面の彫り口は特にすばらしくインド彫刻を思わせるような異国的な気分も感じさせてくれる。
阿弥陀三尊像（三躯 金躰寺）
半丈六で定印を結ぶ阿弥陀如来坐像に観音、勢至の二菩薩立像を脇侍とした三尊像である。肉付けのうすい、形式的にも整ったおだやかな三尊像であるが、中尊の像内に記す墨書銘によって永治二年（一西一）に造られたものであることがわかる。これも定朝様を考える上で重要な作品である。檜材・寄木造り。
四天王立像（二躯 金躰寺）持国天像 増長天像
阿弥陀三尊の両脇に安置される四天王の二休である。この像にも像内に墨書銘があり、持国天は康治元年、増長天には永治二年の年号が記され阿弥陀三尊と同時に造られた一具の像で、彩色と截金文様が残されているのは貴重である。とくにこの二天の輪宝形に火焔をつけた光背が制作当時の古いものであることが注目される。
表紙 十一面観音坐像の面部（檪野寺）
湖南・甲賀地方で有名な天台の古刹、擽野寺の本尊である。像高三メートルを越す巨大な坐像で、面長四八cm、面幅五一cm面奥六五cmという大きく部厚い下ぶくれの顔に大ぶりの眼鼻立ちを豪快な彫り口で刻み出し、堂々たる風格がある。近江の平安中期（十世紀）彫刻の代表作の一つである。
ほか
【はじめに 】より一部紹介
近江は白鳳、天平時代、すでに中央とのつながりの極めて強い重要な地域であったが、八世紀の末、最澄（伝教大師）が天台密教の根本道場として比叡山寺（延暦寺）を開き、また山下では、九世紀の半ばに円珍によって台密の大きな拠点と して園城寺が開かれるに及んで、近江は一躍、日本の仏教文化史上に不動の位はを占めることになる。すでに天平時代から近江には貴族や寺社の荘園がおかれはじめていたが、平安時代に入って、各所に延暦寺その他の寺領が開かれ、近江一円に天台寺院が数多く造られ、仏像が安置される。
現在、県内を歩いてみると、村落の中にある無住の粗末な小堂に、思いもかけない平安の古仏がひっそりと安置されていて驚かされることが多い。もちろん他の地方と同様、古刹として古くからの伝統をそのまま伝えている寺院も多いが、特に近江では、荘園制度の衰退に伴って、また中世以降の度重なる戦乱に巻き込まれて寺が廃絶し、仏像だけがその土地の善男善女によって小さな堂宇に祀られ、護られている例が目立って多いのである。美術書や文化財の案内書を頼りに訪ねて行くとその寺に目的の仏像がなく、聞いてみると、山の向こうに飛地境内があり、その堂に安置しているという例が多い。また、その堂を訪ねても、誰もいなくて、どうしたら良いかと迷うこともある。要するに近くの寺が所有者となっているが、実際は地元の人々によって手厚く護られている例が多いのである。従ってもと天台寺院の仏像であるが、現在は他宗派、たとえば浄土宗、浄土翼宗や禅宗などの寺に属している像や、寺自体が他宗に改宗している例も多い。
いずれにしても、こうした村落の小堂にある仏像たちは、いかにも里人の心の中に生きるような県実で素朴な美しさを持つものが多い。こうしたことは、近江地方の仏像の持つ大きな特色といえるかも知れない。
現在、仏像を中心とする古彫刻で、国の重要文化財に指定されているものを府県別にみると、最も多いのは奈良の四六九件で、滋賀県はこれに次ぐ三七一件を数え、京都の三六八件より多い。（昭和五十九年七月現在数）
試みにこれを時代別に整理してみると、
自鳳・天平 九件
平安 二四九件
鎌倉 九七件
南北朝以降 一六件
となり、平安時代の作例が圧倒的に多いことがわかる。
なお文化庁では昭和四十七年から四年がかりで、滋賀県下に遺存する文化財（美術工芸品）の総合調査を実施したが、岡指定以外の彫刻で、なお白鳳・天平二件、平安ニー五件、鎌倉八三件の遺例のあることが確認され、今さらながら、近江の古彫刻の層の厚さを痛感させられた次第である。
本書ではこの多量な近江の彫刻の全体像をくまなく紹介することは不可能であるので、延暦寺、園城寺、石山寺の三大寺を中心とせずに、その他の中小の寺院にある平安時代の仏像たちを百体あまりにしぼって紹介し、近江の仏像の特質をさぐってみることにしよう。
【図版目録】一部紹介 寸法・所蔵先記載 ●は国宝、◎は重要文化財（ここでは省略）
十一面観音立像 櫟野寺
近江八景 三井晩鐘・比良暮雪・今村紫紅筆 東京国立博物館
薬師如来立像 鶏足寺
十二神将立像 鷄足寺
十一面観音立像 向源寺
千手観音立像 日吉神社
十一面観音立像 鶏足寺
観音菩薩坐像 来現寺
薬師如来坐像 多田幸寺
薬師如来坐像 光明寺
薬師如来坐像 大岡寺
観音菩薩立像 常教寺
十一面観音坐像 櫟野寺
薬師如来坐像 善水寺
半肉彫千手観音立像 神照寺
不動明王立像 神照寺
観音菩薩坐像 真光寺
薬師如来坐像 石部神社
阿弥陀如来坐像 善明寺
阿弥陀如来坐像 善明寺
阿弥陀三尊像 金躰寺
四天王立像 持国天 増長天 金躰寺
地蔵菩薩坐像 櫟野寺
釈迦如来坐像 円福院
石塔寺の三重塔
狛坂磨崖仏 史跡
崇福寺如来形土専仏 栄福寺址出土 近江神宮
雪野寺塑像断片
銅造観音菩薩立像 報恩寺
銅造聖観音菩薩立像 慈眼寺
銅造釈迦如来坐像 石山寺
金銅誕生釈迦仏立像 善水寺
銅造薬師如来立像 聖衆来迎寺
銅造観音菩薩立像 石山寺
薬師如来立像 奈良 唐招提寺
薬師如来立像 奈良 元興寺
薬師如来立像 鷄足寺
十二神将立像 鶏足寺
十一面観音立像 向源寺
菩薩半跏像 京都 宝菩提院
十一面観音立像 鶏足寺
十一面観音立像 石道寺
十一面観膏立像 高 石道寺
千手観音立像 日吉神社
菩薩立像 日古神社
薬師如来立像 充満寺
十一面観音立像 充満寺
釈迦如来坐像 立法寺
准胝観音立像 観音寺
不空羂索観音立像 京都 広隆寺
千手観音立像 千手院
観音菩薩立像 来現寺
薬師如来坐像 多田奉寺
観音菩薩坐像 鍛高 梵釈寺
十一面観音立像 長命寺
阿弥陀如来立像 専称寺
釈迦如来坐像 保福寺
十一面観音坐像 櫟野寺
軍茶利明王立像 常楽院
軍茶利明王立像 金勝寺
毘沙門天立像 金勝寺
薬師如来坐像 善水寺
梵天立像 善水寺
帝釈天立像 善水寺
地蔵菩薩立像 永昌寺
四天王立像 善水寺
不動明王坐像 石山寺
不動明王坐像 善水寺
兜跋毘沙門天立像 善水寺
金剛力士立像 阿形 吽形 善水寺
薬師如来坐像 大岡寺
大日如来坐像 高野山 西塔
薬師如来坐像 大日寺
薬師如来坐像 法林寺
観音菩薩立像 常教寺
観音菩薩立像 来迎寺
十一面観音立像 蓮長寺
薬師如来立像 寛永寺
十一面観音立像 東門院
薬師如来立像 宝光寺
如来立像 若王寺
大日如来坐像 正福寺
（以下所蔵先も省略）
大日如来坐像
帝釈天立像
十一面観音立像
千手観音立像
半肉彫千手観音立像
不動明王立像
卷千手観音立像
十一面観音立像
十一面観音立像
薬師如来立像
四天王立像
不動明王 二童子像
観音菩薩坐像
観音菩薩坐像の像内墨書銘
薬師如来立像
阿弥陀如来坐像
阿弥陀如来坐像
釈迦如来坐像
薬師如来坐像
阿弥陀如来坐像
阿弥陀如来坐像
阿弥陀如来坐像
阿弥陀如来坐像
阿弥陀如来坐像
阿弥陀如米坐像の像内墨書銘
阿弥陀三尊像
千手観音立像の像内墨魯銘
千手観音立像
釈迦三尊像 脇侍
帝釈天立像
虚空蔵菩薩半跏像
大威徳明王騎牛像
大威徳明王騎牛像
大日如来坐像
地蔵菩薩坐像
地蔵菩薩坐像の像内墨書銘
地蔵菩薩坐像の像内墨書銘
地蔵菩薩坐像
阿弥陀如来坐像の像内墨書銘
阿弥陀如来坐像
不動明王坐像
薬師如来坐像
阿弥陀如来坐像
毘沙門天立像
四天王立像
地蔵菩薩立像
薬師如来立像
観音菩薩立像
観音菩薩立像の像背墨書銘
伝教大師坐像
阿弥陀如来立像
表紙不動明王坐像
ほか
★状態★
1985年のとても古い本です。経年の割に比較的保存状態の良い一冊。
外観は通常保管によるスレ、開きじわ、天小口に経年並ヤケなどがある程度、
本文経年並ヤケありますが、目立った書込み・線引無し、
問題なくお読みいただけると思います。（見落としはご容赦ください）
;)
