酒井英利（1948年生まれ）は京都市出身の洋画家。1971年に立命館大学を卒業し、1972年から1982年まで二科展に出品。関西二科賞や京都新聞社賞、京展紫賞、京都画廊連合会選抜作家展フェスティバル賞などを受賞。1973年、1974年、1981年にはヨーロッパを遊学し、当初はヨーロッパ風景を主に描く。1984年頃から日本の風景に注目し、特に京都や奈良の四季折々の景色を柔らかな色彩と精密な描写で表現。桜や紅葉を題材にした作品が多い。2005年からは浄土真宗親鷲会の大壁画「松柏天聴」を制作している。

酒井英利「春麗清水寺」油彩 15号 大作
春霞に包まれた京都・清水寺の舞台を、幻想的な筆致で描いた酒井英利による油彩画《春麗清水寺》。50×65.2cmの大作（15号）に広がるのは、咲き誇る桜と淡くたなびく霧の中に浮かぶような本堂の姿です。静寂と荘厳が共鳴しあう構図は、古都に息づく時間の深さと自然美の調和を感じさせます。寺を囲む桜の花々は繊細な点描と柔らかな色彩で丹念に描かれ、春特有の淡い光が全体をやさしく包み込みます。霧のベールは風景をにじませ、視覚的な奥行きとともに、見る者の心にも静けさを届けてくれます。寺の力強い構造と、それを支える柱群の垂直線は、柔らかな自然の中に凛とした存在感を放ち、絵全体に張りつめた気品を与えています。

「春麗（しゅんれい）」という題が象徴するように、春の麗らかさと伝統建築の威厳が見事に融合した一作です。画家・酒井英利が長年描き続けてきた「日本の美」の精髄が、ここに静かに、しかし確かに宿っています。