
【専門書掲載品 (Book Piece) & ロストテクノロジーの結晶】
1900年代初頭、米国・Watson社(ワトソン社)によって製作された、スターリングシルバー製のエナメルブローチです。
本品は、米国のアンティークジュエリー専門書『200 Years of American Manufactured Jewelry & Accessories』(Suzanne Marshall著)のP.163に掲載されているものと**同型の作品(Book Piece)**です。
■ 専門書との比較・再評価
書籍内では『Calla lily(カラーリリー)』として紹介され、2003年当時の評価額で350-450$と記載されています。
しかし、当方の観察により、以下の点が判明しました。
真のモチーフ: 裏面の刻印の向き(画像6)から判断すると、花は下向きに咲くデザインです。よって、カラーリリーではなく「スノードロップ(待雪草)」を意匠化したものと思われます。1900年前後、スノードロップは「希望」「慰め」「春の訪れ」の象徴として、ジュエリーのモチーフとして非常に人気がありました。
特に、冬の終わりから春にかけて咲くこの花は、新しい時代の幕開け(20世紀)を祝う意味でも好まれました。アール・ヌーヴォー期特有の、植物の生命力を曲線で表現した優美なデザインです。
コンディション: 書籍掲載の個体と比較しても、本品の方がエナメルの発色が鮮やかで透明度が高く、保存状態が極めて良好です。
資産価値: 20年前の評価額に加え、近年のアンティーク銀器の高騰を考慮すれば、資料的価値も含めミュージアムクラスの逸品と言えます。
■ 失われた技術(ロストテクノロジー)
メーカー刻印は「GENUINE CLOISONNE(有線七宝)」ですが、実際には以下の複合技法が駆使されています。
バスタイユ(Basse-taille):
画像4の葉の部分をご覧ください。半透明の緑色エナメルの下に、**「流れるような波状の彫り」**が透けて見えます。これにより、光が当たると内部から宝石のように輝き、葉脈の生命感を表現しています。
マイクロ・テクスチャ:
画像5の花弁部分では、乳白色エナメルの下に微細な**「梨地(なしじ)」**のようなザラついたテクスチャが施され、ベルベットのような柔らかい質感を演出しています。
超微細彫刻:
特筆すべきは、肉眼では見落とすような細い白線の部分にまで、微細な花の刻印やテクスチャが施されている点です(画像3参照)。
現代の効率主義では決して生まれない、当時の職人の執念とも言える「超絶技巧」です。
■ スペック
メーカー: Watson Company(マサチューセッツ州アトルボロ、1880年創業。ティファニー等にも供給した名門)
素材: スターリングシルバー(純銀)、エナメル(七宝)
サイズ: 52.4mm × 23.2mm
重量: 14.75g
状態: 100年以上前のアンティークとして極めて良好。
長年、私の手元で研究資料として大切にしてきた物ですが、この価値を理解し、引き継いでいただける方にお譲りできれば幸いです。
エナメル製品ですので、衝撃には十分ご注意ください。