映画開始ただちに、登場人物がカメラに向かってしゃべり始めると、ベルイマンの国へもどってきたのだと実感できる。
スウェーデンのテレビ用に製作された『サラバンド』のプロローグで、マリアン(リヴ・ウルマン)は語る。
その内容はミニシリーズから長篇映画となり、主役の夫婦を世界に紹介した『ある結婚の風景』後に起こった変化だ。
ヨハン(エルランド・ヨセフソン)は大学の仕事から退いているが、マリアンは今でも家庭裁判所で弁護士の仕事を続けている。
2人は訣別を告げてから30年以上も会っていなかった。マリアンはそろそろ再会の時期だと決意し、
人里離れた場所にあるヨハンの別荘を訪れる計画を立てる。
近況を話し合ううちに、疎遠となっていた息子のヘンリック(ボリエ・アールステット)と愛する孫娘のカーリン(ユーリア・ダフヴェニウス)が近くに滞在していることを知るマリアン。
2人は2年前のヘンリックの妻アンナの死をまだ引きずっている。
アンナが実際に登場することはないが――写真が映るだけで、その写真の人物、
ベルイマンの逝去した妻イングリッドに本作は捧げられている――
アンナの亡霊はすべての人物に影を落としている(会ったことさえなかったマリアンにでさえ)。
10の章、プロローグ、エピローグに分割された『サラバンド』は映画よりも舞台に近いが、必ずしもこれは妨げとはなっていない(オリジナルのシリーズの“シーン”を守っているのだ)。
焦点は人物とその言葉にある。国や時代は関係ない。この人たちの問題は個人的だが普遍的だ。
この2時間に外の世界は存在しない。
完璧な世界でベルイマンは映像を作りあげた。
妻への、そして彼の最高のミューズであるウルマンへの恋文であり、ベルイマンがおそらく最後の監督作品になると語っていた作品だ。(Kathleen C. Fennessy, Amazon.com)