独特の伸びのあるミラクル・ヴォイスで21世紀のエリス・レジーナとも呼ばれるブラジル女性歌手の本邦デビュー・アルバム。カエターノ・ヴェローゾほかの名曲が説得力をもって歌われている。

虚飾のない、抑制の利いた歌声だ。力むところがなく、心が自然に躍動していて、柔らかに感情が表現されている。だからこそ、かえって、しみ入るように“歌心”が伝わってくるのだ。こういう歌声はブラジル音楽の“うた”を表現するには理想の歌声である。その歌声の持ち主、ヴァレリアは、ブラジル北東部を拠点に活躍する女性シンガーだ。彼女の歌声はアコースティック楽器の響きとの相性が良く、本作には彼女の歌声にふさわしい、丹精込めた、とても素敵なアコースティック・サウンドが用意されている。収録曲はどれも魅力あるブラジルの楽曲。ルイス・コンザーガ、アントニオ・カルロス・ジョビン、カエターノ・ヴェローゾ、ジルベルト・ジル、ジョアン・ボスコ、さらには新世代のレニーニまで、その楽曲のラインナップは新旧織りまぜて多彩である。また本作では、趣向が凝らされたアレンジが聴きものだ。粋で優雅なボサ・ノヴァ、リズムのシンコペーションが楽しいサンバやバイアォン。さらには、曲によってはファンクのグルーヴやジャズのテイストがブレンドされたり、ポリリズミックな祝祭空間が用意されていたり、とても変化に富んだ仕上がりである。ところが、全体の印象はあれもこれもではなく、一本筋が通っている。それは制作サイドがまっすぐに彼女の歌の個性に照準を定めてアルバム作りを行なった証左であろう。サウンドの基調となっているのは、ギターを中心に据えた揺ぎないアコースティック楽器の響きである。美しいボッサ(6)で言葉を一つ一つ噛みしめるように歌うヴァレリア。彼女の歌声には適度なしめり気があって、その声の響きは乾いた涼風を運んでくれる。また、彼女の歌心にある、深みのある“柔らかさ”。それはサンバを歌っても現代的な意匠の曲を歌っても変わることのない彼女のヴォーカルの特質である。そして、その歌声は見事にブラジル音楽の精髄を伝えてくれるのである。