【目次】
曼荼羅のパターン認識
叙景曼荼羅〈パターンA〉
浄土曼荼羅
当麻曼荼羅の秘密/観する暝想(他力観想)/観る観想(自力観想)
胎蔵界曼荼羅〈パターンB・C〉
蓮華系〈パターンB〉
胎蔵界曼荼羅の中心蓮華の起源/仏教と蓮華の出合い/蓮華化生/蓮華の展開
仏性と光
中台八葉院/遍知院と持明院
無月輪系〈パターンC〉
観音院と金剛手院/釈迦・文殊・虚空蔵院/最外院/八部衆/八天から十二天/天文神(九曜・二十八宿・十二宮)
胎蔵界系のバリエーション
孔雀経曼荼羅/別尊曼荼羅
金剛界曼荼羅〈パターンD・E〉
月輪系(パターンD〉
一印会/成身会/三昧耶会/微細会/供養会/四印会/理趣会/降三世会/降三世三昧耶会
フレーム系〈パターンE〉
金剛界系のバリエーション
月輪系/フレーム系
合成型
1蓮華系(+フレーム系)
1'蓮華(三重)系(+フレーム系)
2月輪系(+半円 三角十叙景系)
3月輪系(+叙景系)
4月輪系(+叙景系)
合成型のバリエーション
蓮華系(+月輪系)
月輪系(+無月輪系)
その他のパターン
明王中心の曼荼羅
天中心の曼荼羅
星曼荼羅(北斗曼荼羅)
絵系図系〈パターンF〉
曼荼羅の諸形態
曼荼羅の歴史
心の地図曼荼羅 むすび
索引(後見返)
【はじめに】
曼荼羅はむずかしい、もう少し分るように説いて欲しいとよく言われます。その最大の理由は、曼荼羅を説明するために、つぎつぎに出てくる難解な仏教用語にあるようです。これはもっともなことなので、この本では、曼荼羅は本来見るべきものである、という原点に帰って、曼荼羅に潜むいくつかの基本パターンを視覚的に掟えることから始めてみました。
各種の曼荼羅におけるパターンは、それ自体か密教思想の表現であるため、パターンを通して、その奥に潜む曼荼羅の心を探るようにしました。パターンと思想の関連が分れば、図を見るだけで、そこに表現されたパターンから、独力で曼荼羅の性格を捉えることができます。本文には、できるだけ振りがなを振りました。振りがながあれば楽に読めますし、さらに知りたければ、普通の辞書以外に、専門の辞書を引くこともできます。最近、中学生で、夢中になると大事典も平気で引きこなし、自然に曼荼羅を理解してしまったという人に会いました。この本が曼荼羅理解のー助となれば幸いです。
〔表紙〕両界曼荼羅(伝真言院曼荼羅)(東寺)金剛界四印会
〔本扉〕両界曼茶羅(子島寺)胎蔵界遍知院・中台八葉院・持明院
〔裏表紙〕伝真言院曼荼羅(東寺)金剛界降三世三昧耶会大日如来
〔見返〕胎蔵図像(奈良国立博物館)
【曼荼羅のパターン認識】より一部紹介
曼荼羅をパターンでとらえてみようという新しい試みをしてみました。パターンにはどんな種類があるのか一目で見渡せるような、視覚索引(visuai index)の役目を果すのがこの見開きです。山登りで道に迷った時、山頂に登れば、辿った道がすぐ分るように、本文中で分らなくなりましたら、ここへ戻って概観したのち、また本文に戻るという具合に読み進めて下さい。
パターンA 叙景系
密教の曼荼羅といえば、一般には以下のパターンに見られるような幾何学文的な構成であるのに、図1の請雨経曼荼羅では、水中に出現した竜宮が、自然な景観で描かれています。この最景的な曼荼羅が密教の曼荼羅であるといわれても、幾何学文的な密教曼荼羅とは本質的に異なるものがあります。この不調和はどこからくるのでしょうか。(5頁)
請雨経曼茶羅(東寺)
パターンB 胎蔵・蓮華系
これは胎蔵界曼荼羅の中心部にある、真紅に花開いた8弁の蓮華で、胎蔵界大日を中心に8尊がめぐっています。曼荼羅の中心部に、もし八葉蓮華があったなら、尊像にかかわりなく、その曼荼羅の中心部は胎蔵系の勢力下にあるとみてよいでしょう。(14頁)
伝真言院曼荼羅(東寺)胎蔵界中台八葉院
パターンC胎蔵・無月輪系
下に並ぶ菩薩は、頭と身体の周囲に、頭光・身光の2光背を負うています。パターンDの尊のように、頭・身光を包む大白円(月輪)はありません。もし曼荼羅の菩薩が、頭・身光のみであるなら、その曼荼羅は胎蔵系といえます。なぜなのでしょうか。 (22頁)
同 胎蔵界観音院聖観音他
パターンD 金剛・月輪系
金剛界の代表尊である大日如来の頭光・身光を包む大きな白円輪は、密教で月輪ともよばれ、金剛系尊か否かを識別しうる重要なポイントなのです。曼荼羅中に月輪尊があれば金剛界系といえますが、それらの尊像は、なぜ月輪を負うのでしょうか。 (36頁)
同 金剛界一印会
パターンE金剛・フレーム系
これは成身会という、最も典型的な金剛界曼荼羅です。内男に5個の中白円があり、外郭の框(フレーム)内には、8月輪尊が点在しています。月輪なを内在するこの種のフレームが外郭として存在する曼荼羅があれば、金剛界系といえましょう。 (42頁)
同 金剛界成身会
合成型1 蓮華系
これからは、いままでみてきたパターンを組み合わせることにより、曼荼羅の性格を探ることにしましょう。まず中心部はパターンBの胎蔵・蓮華系、外郭はパターンEの金剛・フレーム系ですから、胎蔵・金剛両部の合成が明らかになります。 (48頁)
阿弥陀曼荼羅(潁川美術館)
合成型2 月輪系
中央画面いっぱいに大月輪を描くパターンDが中心です。月輪上部に天蓋が懸り、左右に天人が舞い、下部に供養壇をしつらえる点はパターンAの叙景系。壇の左右には密教特有の半円・三角形の図形内に2明王が配されるという合成型なのです。 (52頁)
尊勝曼荼羅(護国寺)
合成型3 月輪系
画面中央に大月輪を描くパターンDが基本となり、大月輪の上部から雲が湧き、両端に天人が舞う。月輪の下部は海が拡がり、中央の宝珠を竜王がめぐり、左右に2明王を配するなど、パターンAの叙景系が展開します。 (54頁)
六字経曼荼羅(醍醐寺)
合成型4 月輪系
ここではパターンDの月輪と、パターンAの叙景とが、完全に上下に2分されています。なだらかな山々の景観の上部の大月輪は、もはや月輪を超えた月であり、おだやかな日本の風土の中に融合しています。 (56頁)
春日本地曼荼羅(東京国立博物館)
パターンF 絵系図系
いままでと全く趣を異にする曼荼羅で、叙景も月輪もありません。上部の尊像を中心に、左右に僧侶が順々に描かれ、あたかも絵による系図を見る思いがします。このような曼荼羅は、どのようにして出現したのでしょう。(68頁)
法相曼荼羅(法隆寺)
ほか
【索引】より一部紹介
愛染曼荼羅 / 阿修羅 / 阿弥陀浄土変相 / 阿弥陀曼荼羅 / 板彫両界曼荼羅 / 一印会 / 一字金輪曼荼羅 / 閻魔天曼荼羅 / 懸仏 / 春日鹿曼荼羅 / 春日本地曼荼羅 / 春日本迹曼荼羅 / 春日宮曼荼羅 / 火天 / 迦楼羅 / 吉祥天曼荼羅 / 宮中真言院御修法/後七日御修法 / 鏡像 / 緊那羅 / 孔雀経曼荼羅 / 熊野曼荼羅 / 供養会 / 華厳五十五所絵巻 / 降三世会 / 降三世三味耶会 / 降伏法 / 虚空蔵菩薩 / 五字文殊曼荼羅 / 五大虚空蔵曼荼羅 / 五秘密会 / 五秘密曼荼羅 / 金剛界三十七尊曼荼羅 / 金剛界八十一尊曼荼羅 / 金剛界曼荼羅 / 金剛薩た / 金剛智 / 金銅板両界曼荼羅 / さそり宮 / 三味耶会 / 三昧耶形 / 四印会 / 敷曼荼羅 / 四摂 / 四親近 / 持明院 / 舎衛城神変 / 釈迦如来 / 十二天曼荼羅 / 種子曼荼羅 / 請雨経曼荼羅 / 聖観音 / 成身会 / 浄土曼荼羅(浄土変相) / 垂迹曼荼羅 / 厨子曼荼羅 / 善無畏 / 尊勝曼荼羅 / 大自在天 / 帝釈天 / 胎蔵界曼荼羅 / 胎蔵旧図様 / 胎蔵図像見返 / 大日如来 / 大仏頂曼荼羅 / 当麻曼荼羅 / 序分義観経六緑 / 定善義十三観 / 中台八葉院 / 本扉 / 伝真言院曼荼羅 / 童子経曼荼羅 / 東寺講堂諸尊立体曼荼羅 / 東大寺大仏蓮弁線刻画 / 難陀竜王 / 如意輪観音 / 仁王経曼荼羅 / 般若菩薩 / 風天 / 仏眼曼荼羅 / 遍知院 / 宝楼閣曼荼羅 / 星曼荼羅(北斗曼荼羅) / 法華曼荼羅 / 法相曼荼羅 / 曼荼羅の流伝図 / 微細会 / 弥勒曼荼羅 / 文殊師利菩薩理趣会 / 文殊菩薩 / 薬叉持明衆 / 理趣会 / 蓮華化生 / 六字経曼荼羅 /
【著者について】刊行当時の情報です
石田尚豊
1922年東京都に生まれる。
東京大学国史学科卒業。東京国立博物館資料課長を経て、現在青山学院大学教授。文学博士。
主な編著書に『密教画』(至文堂)、『曼荼羅の研究』(1978年日本学士院賞受賞)、『両界曼荼羅の智慧』似上東京美術)がある。
〔写真提供〕石元泰博 入江泰吉 加藤敬 杉山二郎 薗部澄
辻本米三郎 永野太造 中村興二 中村凉応
矢沢邑一 柳澤孝 朝日新聞社 穎川美術館
MOA美術館 岡墨光堂 角川書店 金沢文庫
京都国立博物館 高野山霊宝館 至文堂 東京国立博物館 奈良国立博物館 根津美術館 便利堂
〔資料提供〕 田中家 武藤治太