F4195 ゆきざき【光風霽月】天然ダイヤモンド0.48ct Pt900無垢ペンダント 天衣無縫の輝き 画竜点睛の逸品
【商品説明】
題:『鑽石(いし)と星と寒鰤(かんぶり)と』
序章:星岡窯の朝餉(あさげ)
「この馬鹿者がッ!」
雷鳴のような一喝が、北鎌倉のわしの仕事場『星岡窯(ほしがおかがま)』の静寂を打ち破った。目の前では、一番弟子の健太が、蚤に刺された犬のようにびくりと体を震わせ、蒼白な顔で俯いている。
「旦那様、申し訳ございません……」
「謝って済むなら、警察はいらんわい! わしが問うておるのは、その手抜き仕事の言い訳ではない。なぜ、こうなったのかという、その美意識の欠如だ!」
わしが指さしているのは、今しがた健太が焼き上げた出汁巻き卵。そして、それを乗せている、これまた健太が轆轤(ろくろ)を引いた織部の角皿だ。
一見すれば、悪くない。卵は黄金色に輝き、皿の緑釉も深く、それなりに見える。だが、わしの目はごまかせん。
「この卵焼きのどこに魂がある! 巻き簾の跡が不均一で、甘みと出汁の塩梅が舌の上で喧嘩しておる。これはただの『黄色い餌』だ! そしてこの皿! なんだこの締まりのない高台(こうだい)は! 器全体の緊張感を殺しておるではないか。釉薬の流れも計算がなく、ただだらしなく垂れているだけ。お前は、わしの元で何を学んできたのだ! 美とはな、健太、細部に宿るのだ。神は、細部に宿る。その神を疎かにする者に、まことの仕事はできん。さっさと片付けろ! 目障りだ!」
わしは、北大路魯山人の名を継ぐ者ではないが、その精神において、彼の孤高と美への執念だけは誰よりも深く受け継いだと自負しておる。食とは、単に腹を満たす行為ではない。器とは、単に物を盛る道具ではない。両者が一体となり、作り手の哲学と生命が注ぎ込まれた時、初めてそれは人の心を打つ『美』へと昇華するのだ。
そんなわしの、退屈な日常に、ある男が波紋を投じに来た。馴染みの骨董屋『塵外洞(じんがいどう)』の二代目、藤堂君だ。
第一章:塵外洞の挑戦 ― 格物致知(かくぶつちち)
「旦那様、本日は、わたくしの審美眼そのものを、旦那様に問うていただきたく参上いたしました」
店の奥、わし専用のようになっておる欅の一枚板の座卓を挟み、藤堂君はいつになく真剣な面持ちで切り出した。こいつは、先代である親父の威光ばかりを笠に着る、どうにも煮え切らない男だとわしは思っている。先代は、李朝の欠けた徳利一つから、その土の味わい、酒を注がれたであろう名もなき人々の人生まで語れる、本物の目利きであった。だが、この息子はカタログ知識ばかりで、物の持つ『気』が読めぬ。
「お前の審美眼だと? 寝言は寝て言え。お前が仕入れてくるのは、来歴ばかりが先行する頭でっかちな骨董か、さもなくば好事家受けを狙ったあざとい民芸品ばかりだ。わしの眼鏡に適うものなど、これまで一つもなかったではないか」
「お言葉、肝に銘じます。ですが、今日お持ちした一品は……わたくしが、わたくし自身の眼で、初めて『これは本物だ』と、魂が震えた品なのでございます。物に即してその理をきわめる『格物致知』の精神で、どうかご検分を」
大仰な奴め。だが、その必死の形相に、ほんの少しだけ興味が湧いた。わしは顎をしゃくって、品を出すよう促した。
藤堂君が、古びた桐箱から取り出したのは、わしの予想を根底から覆すものだった。
「……藤堂君。貴様、わしを愚弄するか」
声が、凍てつくように低くなったのが自分でもわかった。
真綿の上に鎮座していたのは、現代の宝飾品。小さな、プラチナのペンダントであった。
「骨董屋が、このような銀座のショーウィンドウに並んでいるようなものをわしに見せるとは、どういう了見だ。これは、わしが最も唾棄すべき、魂の欠如した工業製品ではないか! 叩き出すぞ!」
わしが本気で席を立とうとした時、藤堂君は声を張り上げた。
「お待ちください! これは、ただの工業製品ではございません! これは、ある老婦人が、亡きご主人を偲び、生涯をかけて慈しんだ『光の記憶』そのものなのでございます!」
その言葉に、わしの動きが止まった。光の記憶、だと?
「わたくしがこれを譲り受けた際、そのご婦人はこう仰いました。『これは、私の小さな太陽だったの』と。旦那様。どうか、その太陽が放つ光の質を、ご覧いただきたいのでございます」
その悲壮なまでの訴えに、わしは渋々、席に戻った。
「……よかろう。その挑戦、受けて立つ。だが、もしこれがわしの心を一ミリたりとも動かさぬ代物であったなら、お前が隠している秘蔵の『黒龍 しずく』、わしが根こそぎ空にしてやるから、覚悟しておけ」
わしは、その小さな太陽とやらを、疑念に満ちた指先で、そっと摘み上げた。
第二章:掌中の星屑 ― 氷清玉潔(ひょうせいぎょっけつ)
指先に触れた瞬間、ひやりとした鋭利な冷気と共に、ずしり、とした裏切りのない重みが伝わった。2.31グラム。しかし、それは単なる数字ではない。中身がみっちりと詰まった、無垢の金属だけが持つ、凝縮された存在の重みだ。わしが長年扱ってきた砂鉄や金属釉の重さとはまた違う、気品と純粋性を秘めた重力。
「……Pt900か。素材だけは、嘘をつかんな」
「ご明察、恐れ入ります」
プラチナ。金のように自らを誇張せず、銀のように容易くは曇らぬ、孤高の貴金属。その沈黙の美学は、わしの好みではある。だが問題は、この上に乗っている、光る石ころだ。ダイヤモンド。商業主義の権化。わしが最も好かん石だ。
「旦那様、こちらのルーペを」
藤堂君が差し出した真鍮のルーペをひったくり、わしは右目に当てた。左目を閉じ、息を殺して、掌中の小宇宙に焦点を合わせる。
「…………なっ……!」
次の瞬間、わしは呼吸を忘れた。
ルーペの向こう側で炸裂していたのは、光ではなかった。
それは、光の意志そのものだった。
数億年という、人の認識を遥かに超える時を地の底で耐え抜き、奇跡的に結晶となった炭素の魂。その魂が、職人の手による完璧なカッティングを経て、今、わしの眼球に向かってその全存在を叫んでいる。
それは、厳冬の朝、陽光を浴びて七色に輝く樹氷の煌めき。
それは、研ぎ澄まされた名刀『童子切安綱』の刃文が放つ、鋼のオーラ。
いや、違う。もっと根源的で、純粋な光だ。
そうだ、これは星だ。子供の頃に見た、澄み切った冬の夜空に瞬く、シリウスの青白い閃光。あの永遠と孤独を感じさせる、絶対的な輝きが、この数ミリの結晶の中に完璧に封じ込められている。
『氷清玉潔(ひょうせいぎょっけつ)』。氷のように清く、玉のように潔い。一点の曇りもない美しさ。この輝きのためにこそ、存在する言葉だ。
「……0.48カラット。見事な『間(ま)』だ」
わしは呟いた。これ見よがしの大粒ではない。満ち足りる一歩手前の、半カラットにわずかに届かぬこの数字。完璧な満月よりも、わずかに欠けた十六夜(いざよい)の月にこそ風情を感じる、日本の美意識そのものではないか。完璧とは、すなわち完成であり、死を意味する。このわずかな欠落こそが、見る者の心に永遠の憧れと、想像の余地という名の『命』を宿すのだ。
この一粒一粒のダイヤモンドは、極上の魚沼産コシヒカリが炊き上がった時のように、その存在を主張して『立って』いる。これは、地球という巨大な窯で焼かれた、究極の焼き物なのだ。
第三章:円環の理法 ― 天衣無縫(てんいむほう)
わしは、改めてその全体の造形へと視線を移した。
一つの円環。そして、それに寄り添うように配された、一滴の雫。
円。わしが轆轤と対峙し、生涯をかけて追い求める、始まりも終わりもない完璧な形。宇宙の摂理そのものだ。
雫。天からの一滴。生命の源であり、慈雨の象徴。鋭い先端と柔らかな曲線が同居する、非対称の美。
この静的な円と動的な雫が、陰と陽のように、月と太陽のように、絶妙な均衡を保って寄り添っている。
「……天衣無縫(てんいむほう)」
わしの口から、再び感嘆の言葉が漏れた。天人の衣に縫い目がないという故事。あまりに自然で、完璧で、どこにも人の作為を感じさせない美しさ。このデザインは、誰かが無理に考え出したものではない。あたかも、宇宙の法則が、自ずからこの形を選び取ったかのような、抗いがたい説得力を持っている。
ルーペを再度目に当て、石を留める『爪』を見る。
なんだ、この仕事は……。
神業だ。あまりに小さく、繊細で、しかしダイヤモンドを永遠に離さぬという鋼の意志を感じさせる。一本一本の爪の角度、磨き上げられた光沢。これは、わしが茶碗の高台を削り出す時の、あの最後の緊張感と同じだ。高台は器の魂を支える土台。この爪もまた、この宝飾品の魂を支える、完璧な高台なのだ。神は細部に宿る、とはまさにこのこと。この爪一本に、日本人の千年以上にわたる手仕事の歴史のDNAが凝縮されておるわ。
「藤堂君。これを拵えたのは『ゆきざき』とかいう、現代の工房だそうだな」
「はい。銀座に本店を構える…」
「場所なぞどうでもよい! この職人は、ただ者ではない。宝飾師であると同時に、わしと同じ、美に狂った求道者よ」
わしは、己の不明を恥じた。時代やジャンルで物事を判断していた自分を、この小さな光の塊が、静かに、しかし厳しく、諭しているかのようだった。
第四章:光の記憶 ― 画竜点睛(がりょうてんせい)
「して、藤堂君。先ほどの『光の記憶』の話、詳しく聞かせてもらおうか」
わしに促され、藤堂君は静かに語り始めた。
「はい。元の持ち主は、ある企業の会長夫人で、数年前にご主人を亡くされた方でした。ご主人が、結婚記念日に贈られたのが、このペンダントだったそうです。以来、片時も離さず身に着けておられた。ですが、ご自身も大病を患い、長くないと悟られた時、わたくしどもにお声がかかりました。『このまま私が持っていっては、この子が可哀想。この子の光を、次の誰かの人生を照らすために使ってほしい。これは、ただの宝石じゃないの。夫と過ごした日々の喜びも、夫を亡くした哀しみも、全部吸い込んで、輝きに変えてくれた、私の太陽であり、親友だったのよ』と」
その話を聞いた時、わしの心の中で、最後のピースがカチリと嵌った。
そうだ。このペンダントの美しさは、完璧な素材と、神業のような職人の技術だけで成り立っているのではなかった。
中国の故事に『画竜点睛』という言葉がある。見事な龍の絵も、最後に瞳を描き入れて、初めて魂が宿り、天に昇ったという話だ。
このペンダントにとって、プラチナの円環と雫は龍の体であり、0.48カラットのダイヤモンドは鱗の一枚一枚だ。そして、それを仕上げた職人の技が、龍の輪郭を完璧に描いた。だが、最後の『点睛』――この龍に魂を吹き込んだのは、まぎれもなく、このペンダントを愛し、人生を共にした、名も知らぬ老婦人の『記憶』そのものだったのだ。喜びの記憶が光を増し、哀しみの記憶が輝きに深みを与えた。
「……見事な、『画竜点睛』よ」
わしは、掌中のペンダントに、深く、深く、頭を垂れた。
終章:次なる主へ
「旦那様……」
藤堂君が、感極まったようにわしを見ている。
「お前の勝ちだ、藤堂君。これは、わしの完敗だ。お前は、親父を超えたかもしれんな」
わしの言葉に、藤堂君の目から一筋、涙がこぼれた。
「これを『』とやらで、次なる主を探すそうだな」
「はい。この価値を、この物語を、本当に理解してくださる方に、お譲りしたいのです」
「よかろう。だが、商品説明を書くなら、心して書け。スペックなぞ、どうでもよい。この光が語る物語を、お前の言葉で紡ぐのだ。この小さな太陽が、どれほどの喜びと哀しみを知り、それでもなお、これほどまでに清らかに輝いているのかを、正しく伝えるのだ。それができぬなら、このペンダントはわしが預かる。わしの窯の神棚にでも祀って、毎朝、一番良い茶を供えてやるわ」
わしは立ち上がり、北鎌倉の夕暮れに染まる空を見上げた。
美とは何か。
それは、所有することではない。理解し、対話し、そして、次の時代へと敬意を持って受け渡していく、厳粛な儀式なのだ。
画面の向こうで、この物語を読んでおられる、あなた。
もし、あなたの心が、この小さな太陽の輝きに共鳴したのなら、それはもはや偶然ではない。このペンダントに宿る魂が、あなたを新たな主として、選んだということだ。
あなたには、この光の記憶を受け継ぎ、自身の人生という新たな物語を、この輝きと共に紡いでいく覚悟があるかね?
その覚悟がある者にのみ、この掌中の星屑は、その真の輝きを見せてくれるだろう。