【概要|Overview】
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Format:LP(12inch, Stereo)
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Label / Catalog:Invitation VIH-28013
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Country / Year:Japan, 1980
これは、東京とニューヨークの虚構的同時性に立ち上がった、“日本語ニューウェイヴ”の臨界点。音のなかに都市が崩れ、カタカナ語が跳ね返り、情報と身体の結節点がジャンクに弾ける。
【構造|Auditory Architecture & Memory Drift】
《Origato Plastico》は、Plasticsによる第2作目であり、全編にわたりバンド自身のアレンジと、音響の自己操作性に満ちた作品です。各楽曲には演奏者と楽器の詳細が記されており、バスドラムからスリットドラム、Kalimba、African Tambourine、Jazzmaster、Jupiter-4、Prophet-5、Matoronicsといった多層的構成が、純粋な記号遊戯ではなく、音響身体の組み換えとして提示されます。
各トラックは短尺で、リズムとフレーズが点描的に記録されるスタイル。A3「No Good」では、複数の声とパーカッシヴな素材が複層的に重なり、言語=雑音というテーマが浮かび上がります。A5「Back To Wigtown」ではゴミ箱や椅子を用いた即物的パーカッションが、サウンド・アセンブラとしての「身体の自作性」を映し出します。
B面では「Dance In The Metal」や「Interior」が示すように、電子音とアフリカンリズム、DIY装置的楽器の混合によって、構成と脱構成のスパイラルが加速され、最終曲「Desolate」では、オヴァーションとスリットドラムが交錯するなか、ポストヒューマン的音響の残響だけが残されます。
録音・ミキシングはFreedom Studio、カッティングはVictor Company of Japan。音の輪郭はクリスピーで、異常に乾いており、エンジニアリングの段階でも**“物としての音”の質感強調**が徹底されています。
【文脈|Contextual Field Notes & Latent Influence Mapping】
1980年、YMOの国際的成功を背景に、日本の音楽シーンでは「情報としての音楽」が初めて制度化されつつありました。Plasticsはその流れに棹さす存在でありながら、同時に制度を撹乱する内的ウイルスでもありました。
この作品における多声性、DIY性、アイロニカルな日本語・英語の混交、そしてJohn Lennon曲「Eight Days A Week」を含む曲「Park」の選曲自体が、引用=解体=再配置というポストモダン的構造意識を先取りしています。
ジャケット写真(小暮徹)とインナースリーブ(N.Y.C.撮影)という構成は、アルバムを単なる音盤ではなく、音・映像・印刷物からなる複合メディア・オブジェクトへと拡張します。Make-up & Hairに至るまでがクレジットされている点も、ファッションと音楽の完全連動体=未来のJ-Popの雛型として読むことが可能です。
この作品の構造的実験は、後のBuffalo Daughter、Cornelius、さらには海外のChicks on Speed、Le Tigreらに至るまで、**「身体の再配置をめざす音楽」**の系譜のなかに置かれるべき試金石です。
Plastics《Origato Plastico》とYMO周辺のネットワーク分析|Network Drift Across the Technopop Archipelago
1. 制度外部からの参入者としてのPlastics
Plasticsは、YMO(Yellow Magic Orchestra)がCBS/Sonyという大資本と結びついた「制度化された前衛」であったのに対し、よりDIY精神と異物感を伴ってシーンに参入した周縁的実験体でした。YMOが電子音の制度化と世界輸出を志向したのに対し、Plasticsは制度を戯画化しながら、そこに寄生して改造するという戦略を取ったと言えます。
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制作拠点の違い:YMOは東芝EMIやCBS/Sony系の大スタジオで録音し、ミキシングもニューヨークの名門スタジオを使ったのに対し、Plasticsは《Origato Plastico》でFreedom Studio(当時としては前衛的なインディペンデント設備)を使用。
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プロデュース体制:YMOが細野晴臣主導のトップダウン型制作であるのに対し、Plasticsは全員が演奏・作詞・アートワークに関与する集合知的制作体。
2. 思想的共振:記号としての音楽、複数性としての声
両者は、音楽を音響現象であると同時に、メディア記号として再構成可能なものと見なす態度において共振しています。
このように、言語・音響・身体を記号的素材として再構築する点で、両者は思想的にも並走しています。
3. 国際戦略と外部知覚の構造
Plasticsは1980年前後にNY CBGB公演やRough Trade経由の欧州進出を果たし、The B-52’sやDevo、Talking Headsらとも交流を持つことで、日本発の「ポスト・クラフトワーク的変異体」として受容されました。
4. インフラとの関係:Victor vs. Toshiba EMI / CBS Sony
このレイヤー差は、録音・流通・ライブ体制すべてにおいて異なっており、「制度のなかの異物」としてのPlasticsという存在感が際立ちます。
Plasticsは、YMOの世界的成功が拓いた「日本音楽の受容回路」にこっそり忍び込み、その内部から記号性、DIY性、異物感を仕掛けていく反・制度的構造菌のような存在でした。
この関係性は、Cornelius、Buffalo Daughter、相対性理論、さらには海外のGuerilla TossやThe Chapといったメタポップ世代へと、断絶ではなくねじれた継承線として今なお作用しています。
【状態|Material Condition】
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Media:EX(軽微なスレ)
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Sleeve:EX(経年による軽微なスレ)
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帯:付属
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インサート
【留意事項|Terms & Logistics】