【概要|Overview】
- フォーマット:10インチLP(モノラル 33 1/3回転)
- レーベル:Ducretet Thomson(原盤)/澤野工房リイシュー
- カタログ番号:250 V 023
- 製造国・リリース年:日本(澤野工房による復刻)、2010年
- メディア|盤質:NM(Near Mint)
- ジャケット|状態:NM(Near Mint)
- インサート|付属:日本語ライナー付属(澤野工房制作)
この盤は、1956年フランスで録音された幻のモダンジャズ名作を、
日本・澤野工房が「文化財の再生」という視点で丁寧に復刻した一枚である。
単なる音の再現ではない。時間に沈殿した音楽記憶を、現代に召喚するための、精緻な知覚装置である。
【留意事項|Terms & Logistics】
- 発送方法:匿名配送(おてがる配送ゆうパック60サイズ)
- 支払方法:!かんたん決済(落札後5日以内)
- 同梱対応:可能(取引ナビにてご相談ください)
- 注意事項:中古盤の特性をご理解いただける方のみご入札ください。
重大な瑕疵を除き、ノークレーム・ノーリターンでお願いいたします。
配送中の破損・紛失については配送会社の補償範囲内で対応いたします。
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1. Captain Jetter
オープナーに相応しく、ズート・シムズのテナーが大胆に航行するナンバー。
BPMは中庸、4/4スウィング。ベースが堅実に地面を踏み、ピアノは3度跳躍を軸に、裏拍を強調したブロッキング。
ドラムはスネアブラシとライドで、軽さと粘度のバランスが絶妙。
EQ構造としては、低域に豊かさ(7/10)、中域の厚みはやや控えめ(5/10)。
トランペットはエッジを抑え、サックスと一体化するような音像定位。
知覚上は、テナーが1小節をまたぐようにフレーズを滑らせ、拍節に微細なズレを生む。
これが内的時間感覚を揺らし、身体のリズムに「一瞬の迷い」を強いる仕掛けとなっている。
2. Nuzzolese Blues
本作の中核を担うブルースナンバー。
しかし構造は12小節の定型に収まらず、サブドミナントでの長居/終止形の曖昧化が仕掛けられている。
サックスはパームキーを多用し、**倍音を活かしたロングトーンで「耳を圧するような空間」**を生む。
EQは中音域(1kHz)に厚み(7/10)、音場は前面に迫るように構成されており、内的な“重心の低下”を引き起こすような重圧感がある。
フレーズは反復的に進行するが、反復=安定ではなく、撓みの増幅として作用。
ループ構造による記憶の刻印が、「深層的耳」に沈殿するタイプの演奏。
3. Everything I Love
スタンダードでありながら、このトラックには**「空間の予感」**が宿る。
AABA形式に忠実だが、1小節ごとに微細なテンポの揺れがあり、モノとしての拍子が「融解」していく感触がある。
高域の明瞭さ(Treble 10kHz 6/10)と高中域(4kHz)の浮遊感が特に顕著。
ピアノのアルペジオが「空間の弧」を描き、リバーブを過剰に付与せず、**残響ではなく“記憶の曖昧さ”**で空間性を表現している。
Zoot Simsのソロは特に素晴らしく、リスナーの知覚予測を半拍ズラし続ける構成。
「来る」と思った瞬間に来ない、「抜ける」と思った音が残る。
これはまさに、知覚の撓みを生成するアーキテクチャである。
4. Evening In Paris
アルバム随一のスローバラード。
この曲では、特に**間(Silence and Breathing)**の使い方が卓越している。
- ズート・シムズのテナーは、音の終息を「完全には閉じない」。
- 息遣いの残滓が、フレーズとフレーズの間を物質化する。
リズムセクションはほぼリズムを刻まず、
ピアノの単音ベースライン+ドラムのブラシワークのみで**「静かな推進力」**を提供。
EQ的には、中低域(250Hz〜1kHz)にピークを持ち、
高域は抑え気味(Treble 10kHz 4/10)。
→ 空気密度が高く、音像が"霧化"するような知覚を引き起こす。
5. On The Alamo
軽快な4ビート・スウィング。
ドラムがハイハットとライドで細やかな裏拍シンコペーションを刻み、
ベースがウォーキングする一方、ピアノは表拍裏拍を曖昧に崩すコンピングを入れる。
このリズム設計により、
聴き手の身体の内部リズムは**「スウィングしているのに、地面が滑る」**ような感覚を覚える。
EQバランスはフラット(Mid 6/10, High-Mid 5/10)、音場もナチュラルだが、
録音上、ドラムのブラシとベースの粒立ちが非常にクリアに分離されている。
6. My Old Flame
リリカルなバラード解釈。
ピアノはコードを分解し、ほとんどアルペジオのようなアプローチ。
ドラムスは最小限のブラシ、ベースも単音を引き延ばし、
時間が「点」ではなく「糸」として流れる感触を与える。
ズート・シムズは、母音的(vocalic)フレージングを駆使し、
「吹く」のではなく、「語る」ようなラインを描く。
EQは、Mid(1kHz)強調型。
シムズのサックス音像は、リスナーの内耳に直接囁きかける配置となっている。
7. Little Jon Special
アルバムのクロージングにふさわしい、アップテンポの小粋なテーマ。
AABA構造だが、
- Bセクション(ブリッジ)でモーダルなズレを仕掛け、
- ソロ部でリズムセクションが微細にテンポアップする。
この結果、
**「終わらない疾走感」**が生まれ、リスナーの内部時間を無意識に加速させる。
EQレンジは広め。
ベースのアタック(100Hz〜250Hz)、
ドラムのブラシとライド(4kHz〜8kHz)が瑞々しく浮かび上がる。
このトラックの疾走するモダリティは、
後のフリー・ジャズ、もしくは
**初期マイルス・デイヴィス・クインテット(Prestige四部作期)**への橋渡しとなる気配がある。
また、リズムとモードの接続的意識という点では、後のポストバップ、
さらには現代エレクトロニカの**マイクロポリリズム設計(例:Autechre)**にも間接的な影響線を引き得る。