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F2501 釣りキチ三世代住宅編 最高級Pt850無垢喜平ネックレス 長さ61.5cm 重量50.71g 幅4.7mm
F2501 釣りキチ三世代住宅編 最高級Pt850無垢喜平ネックレス 長さ61.5cm 重量50.71g 幅4.7mm [浏览原始页面]
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 --- ### 潮騒のプラチナ **序章:令和の凪** 風が死んでいた。東京湾に面した古い護岸は、まるで時間の澱が溜まった水槽の底のように、重苦しい静寂に包まれていた。夕暮れとも夜の始まりともつかない、曖昧な光が世界をセピア色に染め上げている。俺、高橋海斗(たかはしかいと)、28歳。手にしたスマートフォンの画面には、興味もないゴシップニュースと、成功者たちの眩しい日常が、まるで俺の無為な時間を嘲笑うかのように流れ続けていた。 ウェブデザインの会社を3年で辞めた。いや、正確には辞めさせられたに近かった。クライアントの無理な要求と、上司からのプレッシャー、そして何より、自分が創り出すものへの情熱が枯渇していく感覚に耐えられなくなったのだ。今はフリーランスと名乗りながら、実家で親の脛をかじり、クラウドソーシングで単価の安い仕事を細々とこなす毎日。社会という巨大な歯車から弾き出され、自分だけが空転しているような焦燥感が、常に胸の奥にこびりついていた。 首には、ずしりとした異物感が常に存在を主張している。 「F2501 最高級Pt850無垢喜平ネックレス 長さ61.5cm 重量50.71g 幅4.7mm」 一週間前、亡くなった祖父・源蔵(げんぞう)の遺品を整理していた父・稔(みのる)が、まるで厄介払いをでもするかのように、無造作に俺に手渡したものだ。埃をかぶった桐の箱の中から現れた、鈍く、しかし圧倒的な存在感を放つプラチナの塊。添えられていた古ぼけた鑑定書に書かれた無機質な文字列が、その現実的な価値を物語っていた。 プラチナ850。50グラムを超える無垢の喜平チェーン。それは、ユニクロのパーカーを着てコンビニの弁当をすする俺の人生には、あまりに不釣り合いな、冷たくて重い現実だった。 「じいちゃん、こんなもん持ってたんだな」 父は、タバコの煙を吐き出しながら、どこか吐き捨てるように言った。その横顔には、軽蔑と、ほんのわずかな寂しさが滲んでいた。 「釣りばっかりして、家のことなんかこれっぽっちも顧みなかった男がだ。そのくせ、金は持ってたんだな。見栄っ張りだったんだよ、あの人は」 父と祖父の関係は、俺が物心ついた頃から、凍てついた冬の海のように冷え切っていた。俺自身の祖父の記憶も、ほとんどない。いつも海に出ていて、家中に潮の匂いを持ち帰る人。たまに家にいる時も、縁側で酒を飲みながら、遠い目をして黙り込んでいる大きな背中。俺が話しかけても、「おお」とか「そうか」とか、短い返事しか返ってこなかった。そんな、コミュニケーションを拒絶しているかのような祖父が、なぜこんなにも自己顕示欲の象徴のようなネックレスを?見せびらかすような性格には、到底見えなかった。ただの遺品のはずが、解けない謎のように首に絡みついている。 今日は、なぜか無性に海が見たくなった。というより、家にいるのが息苦しかったのだ。父の溜息と、母の心配そうな視線。そのどちらもが、無職の俺の肩に重くのしかかる。だから、逃げてきた。祖父が来る日も来る日も通い続けたという、この寂れた護岸に。父は「あんな場所、魚も寄り付かん」と馬鹿にしていたが、俺には何か、祖父の残り香のようなものが感じられる気がした。 祖父の形見として引き取った、古びた釣り竿と、傷だらけのタックルボックスを傍らに置く。竿はグラスファイバー製で、今の時代のものと比べると重くて無骨だ。しかし、その使い込まれたグリップには、祖父の手の形が染み込んでいるようだった。 護岸の縁に腰を下ろし、コンビニで買ったデコポンを一つ取り出す。ごつごつとして、いびつな形をした柑橘。なぜだか、寡黙だった祖父の、節くれだった拳を思い起こさせた。そして、俺は魔が差したように、首からネックレスを外した。ひんやりとした滑らかな感触が指に伝わる。50.71グラムの重みが、手のひらに心地よい。それを、デコポンのいびつな頭頂部に、まるで古代の王に捧げる王冠のように、そっと乗せてみた。ただの、気まぐれだった。 その瞬間だった。 最後の太陽光が、水平線の向こうに隠された巨大なレンズを通過したかのように、一本の強烈な光条となって護岸を射抜いた。その一筋の光が、デコポンの上に鎮座するプラチナネックレスに吸い込まれるように集束する。Pt850の鈍い輝きが、ありえないほどの光量を放ち、眩い閃光となって俺の視界を真っ白に塗りつぶした。 「うわっ!」 強烈な浮遊感。いや、落下感か。世界が反転し、内臓が持ち上がるような不快な感覚。潮の匂いが急に濃くなり、化学薬品のような匂いが混じる。耳元で響く波の音は、今の気だるい音ではなく、もっと生命力に満ちた力強い音に変わっていた。体がねじれるような衝撃の後、俺はコンクリートの上に強く尻餅をついていた。 「いって…」 数秒間、白い残像がちらつく視界の中で瞬きを繰り返す。やがて焦点が合うと、俺は目の前の光景に息を呑んだ。護岸のコンクリートは、ひび割れや汚れがなく、打ち立てのように新しい。海は、俺が知っている濁った東京湾ではなく、底の石が見えるほど青く澄んでいる。遠くに見える街並みも、高層ビルがなく、どこか低い。そして何より、空気が違った。排気ガスの匂いが薄く、磯の香りと、どこかの工場から流れてくるような甘い化学臭が混じり合った、不思議な匂いがした。 俺の足元には、先ほどと同じようにデコポンの上に乗ったプラチナネックレスが転がっている。しかし、俺が持っていたはずのスマートフォンも、コンビニのレジ袋も、すべてが跡形もなく消え失せていた。 呆然と立ち尽くす俺の背後から、野太い、それでいて張りのある声が聞こえた。 「おい、あんちゃん。そこで何やってんだ。そんなとこで座り込んでっと、ケツが冷えて痔になるぞ」 振り返ると、そこに立っていたのは、日に焼けた精悍な顔つきの男だった。40代前半だろうか。がっしりとした体躯に、使い古されたドカジャンとニッカポッカ。その鋭い眼光に、俺は強烈な既視感を覚えた。いや、知っている。この顔を、俺は知っている。実家の色褪せたアルバムの中で、幼い父の隣で仏頂面をしていた、若き日の祖父、源蔵その人だった。 **第一章:昭和の釣り人** 「…え?」 俺の口から漏れたのは、そんな間抜けな声だけだった。目の前の男、源蔵は、眉間に深い皺を寄せ、怪訝そうな顔で俺を見下ろしている。その手には、俺が今日持ってきたものとよく似た、しかしもっと使い込まれ、飴色になった竹の和竿が握られていた。 「どうした、具合でも悪いんか。見たことねえ顔だな。こんなとこで油売ってると、おまわりさんに職質されるぞ」 源蔵は、俺の服装を上から下まで値踏みするように眺めた。令和の感覚ではごく普通の、機能性を重視したアウトドアブランドのジャケットとストレッチパンツ。しかし、この時代の人間から見れば、その化学繊維の質感も、タイトなシルエットも、奇異に映るのだろう。彼の視線が、まるで異星人を見るかのように突き刺さる。 「…いえ、大丈夫です。ちょっと、立ちくらみが…」 咄嗟に嘘をつく。タイムスリップした、などと口走れば、頭のおかしい奴だと思われるか、最悪の場合、どこかへ通報されるだけだ。俺は慌てて立ち上がり、足元のネックレスとデコポンを拾い上げた。デコポンという柑橘は、この時代にはまだ存在しないはずだ。これも見られてはまずい。慌ててジャケットのポケットにねじ込んだ。 源蔵の視線が、俺の手の中で鈍い光を放つプラチナネックレスに突き刺さった。彼の目が、わずかに見開かれる。それは驚きというより、何かを見定めるような、職人のような目つきだった。 「そりゃあ…大したもんだな。プラチナの喜平か。ずいぶん目方もありそうだ」 「あ、ええ、まあ…親父の形見で」 また、咄嗟に嘘が出た。半分は本当だが。 「ふうん。若いのに、そんなもん首からぶら下げて。見せびらかしてると、ろくなことになんねえぞ。この辺も、最近は物騒だからな」 ぶっきらぼうな口調だが、そこには奇妙な説得力と、わずかながらの親切心が感じられた。俺はネックレスをジャケットの内ポケットにしまい込んだ。ポケットの中で、50.71グラムの重みが、この非現実的な状況における唯一の現実として揺れた。 「釣りかい?あんちゃん」 源蔵はそう言うと、俺の許可も得ずに隣にどっかりと腰を下ろし、慣れた手つきで仕掛けの準備を始めた。彼のタックルボックスは木製で、長年の使用で角が丸くなり、いい味を出している。中には、手作りのものと思われる唐辛子ウキや、仕切りにきれいに並べられたガン玉、様々な太さのハリスが整然と並んでいた。その一つ一つの道具に、彼の釣りへの愛情が染み込んでいるようだった。 「は、はい。まあ、そんなところです」 俺は祖父の形見であるグラスファイバーの竿を、おずおずと取り出した。リールは、現代の基準では旧式だが、それでもこの時代においては最新鋭の部類に入るかもしれない。源蔵はそれを横目で一瞥し、ふん、と鼻を鳴らした。 「なんだそりゃ。おもちゃみてえな竿だな。最近の竿は、軽くていけねえ。魚との駆け引きの味がねえんだ。ただ巻き上げるだけじゃ、面白くもなんともねえ」 彼はそう言うと、自分の竹竿を愛おしそうに撫でた。竿には、漆で「源」の一文字が描かれている。それは彼の誇りそのものに見えた。 気まずい沈黙が流れる。俺は、自分が過去に来てしまったという事実を、まだ完全には受け止めきれずにいた。ここはいつなんだ?どうすれば帰れる?そもそも、なぜこんなことになった?デコポンとネックレス?まさか。疑問が頭の中を渦巻くが、答えはどこにもない。 「…あの、すみません。今日は、何月でしたっけ…?ちょっと、寝ぼけてて…」 思い切って、できるだけ自然を装って尋ねてみた。源蔵は「なんだ、あんちゃん、昨日は飲み過ぎたんか」と呆れた顔でこちらを見た。 「昭和55年だ。10月の18日。秋晴れの釣り日和だ。こんな日に寝ぼけてるなんざ、もったいねえ」 昭和55年。1980年。俺が生まれるより15年も前だ。父の稔は、まだ10歳の小学生。目の前の祖父は、俺の父親よりも若い。その事実が、重い錨のように俺の心にずしりと沈み込んできた。 「どこから来たんだ?この辺のもんじゃねえだろう」 「…ええ、まあ、遠くからです。ちょっと、訳ありで…」 曖昧に答えるしかない。源蔵はそれ以上は追及せず、「そうか。人間、誰しも一つや二つ、訳はあるもんだ」とだけ言って、再び海に視線を戻した。彼の横顔に、秋の夕陽が深い陰影を刻んでいた。 それから数時間、俺たちは言葉も交わさずに竿を並べた。しかし、それは苦痛な時間ではなかった。源蔵の釣りは、一種の芸術、あるいは求道者の修行のようだった。潮の流れを読み、風の向きを肌で感じ、コマセを撒くタイミングと量を寸分の狂いもなくコントロールする。彼のすべての動きには無駄がなく、まるで海と無言の対話をしているかのようだった。その姿は、俺が記憶している「いつも黙り込んでいる大きな背中」そのものだったが、そこにあるのはコミュニケーションの拒絶ではなく、対象への深い集中と敬意だった。 一方の俺は、ただ闇雲に仕掛けを投げ込むだけ。現代の知識でタナ(魚の泳層)を予測してみるものの、アタリは一向に来ない。焦りと苛立ちが募る。 「あんちゃん、タナが合ってねえ。それに、ハリスが太すぎる」 不意に、源蔵が言った。彼は俺の釣りを見ていないようで、全てお見通しだった。 「今日の潮は二枚潮だ。上が滑ってるが、底は緩く逆に流れてる。そういう時は、大物は底に張り付いてるもんだ。ハリスを1号まで落として、もう一ヒロ長くしてみな。んで、錘を一つ足して、底をきっちりとるんだ」 言われるがままに仕掛けを調整する。1号のハリスなど、今の俺には心もとなくて使ったこともない太さだ。しかし、彼の言葉には逆らえない不思議な力があった。 仕掛けを投入し直して数分後。それまで沈黙していた竿先が、こん、こん、と小さくお辞儀をした。前アタリだ。心臓が跳ねる。そして次の瞬間、ぐぐーっと力強く引き込まれた。 「来たっ!」 反射的に竿を煽る。途端に、強烈な引きが腕に伝わった。経験の浅い俺は、パニックに陥り、ただ力任せにリールを巻こうとする。 「馬鹿野郎!竿を立てろ!魚に顔を向けるんじゃねえ!竿の弾力でいなすんだ!糸を出す時は出して、巻ける時に一気に巻く!魚に主導権を渡しちまうんじゃねえ!」 源蔵の怒声が飛ぶ。それは単なる罵声ではなく、的確な指示だった。彼の指導通りに竿を操作すると、不思議と暴れていた魚の引きがコントロールできるようになった。数分間の格闘の末、海面に銀色の魚体がきらめいた。40センチはあろうかという、見事な黒鯛だった。 タモ網ですくい上げ、護岸に横たえる。美しい魚体に見惚れ、俺は思わず歓声を上げた。心臓が早鐘のように鳴っている。自分で考え、工夫し、そして魚と駆け引きをして釣り上げた、という原始的な興奮が全身を駆け巡った。 「…やるじゃねえか。筋は悪くねえ」 源蔵が、ほんの少しだけ口の端を上げて言った。その一言が、会社でどんなに褒められるよりも、なぜかたまらなく嬉しかった。 その日を境に、俺は奇妙な二重生活を始めることになった。寝床は、幸いにも近くにあった安宿「みなと荘」に適当な理由をつけて転がり込めた。所持金は令和の紙幣で、使えるか不安だったが、幸いにもデザインが大きく変わっていない夏目漱石の千円札が数枚財布に入っており、当座をしのぐことができた。昼間は港で日雇いの荷揚げの仕事を見つけ、糊口をしのいだ。慣れない肉体労働は過酷だったが、汗を流して得た金で食う飯は、不思議と美味かった。 そして夕方になると、必ずあの護岸へ向かう。そこには、ほとんど毎日、源蔵がいた。俺は自分の名前を「カイト」とだけ名乗り、素性は曖昧にぼかした。源蔵も深くは聞いてこなかった。俺たちは、ただ竿を並べる「釣り仲間」だった。 釣りを共にしながら、俺は少しずつ源蔵という人間を理解していった。彼は、父が言っていたような「家族を顧みない冷たい人間」では決してなかった。口は悪いが、面倒見はいい。俺のような素性の知れない若造に、根気強く釣りのイロハを、そしてその奥深さを教えてくれた。彼の釣りに関する知識は底なしで、まるで海の生き字引のようだった。 彼はなぜ、これほどまでに釣りに打ち込むのか。ある嵐の翌日、海が荒れて釣りができない日に、俺は思い切って尋ねてみた。俺たちは、港の小さな飲み屋で、熱燗を酌み交わしていた。 「源さん…どうして、毎日、あんなに海に?」 源蔵は、湯気の向こうで目を細め、ちびりと酒を口に含んだ。 「…海は、正直だからな」 「正直?」 「ああ。都会の人間関係みてえに、腹の探り合いも、おべっかも、嘘もねえ。かけた手間と情熱に、正直に応えてくれる。まあ、応えてくれねえ時の方が多いがな。それも含めて、正直なんだ。俺みてえな、学もねえ無骨な人間にゃあ、こういう世界の方が性に合ってんだよ」 そして、彼はぽつりと言葉を続けた。 「それに…家にいると、息が詰まる時がある」 「息が?」 「息子がな…稔っていうんだが、最近、どうにも俺を避けてやがる。あいつは俺と違って、頭の出来がいい。だから、俺みてえに体張って働くより、もっと違う生き方があると思ってるんだろう。俺が毎日泥と潮にまみれて帰るのを、どこか見下してるのかもしれねえ。どう接していいか、わからんのだ」 その横顔は、俺の知らない祖父の顔だった。孤独で、不器用で、息子との関係に悩み、それでも海にしか自分の居場所を見出せない、一人の男の顔だった。彼は都会の喧騒や、複雑な人間関係から逃れるように、そして、うまく築けない家族との関係から目を背けるように、この海に自分の魂を預けていたのかもしれない。 そして、俺は見てしまった。数日後、日雇いの給金を受け取った源蔵が、慣れない足取りで一軒の宝飾店に入っていくのを。それは港町には不釣り合いな、瀟洒な店だった。俺は気になって、店の外からそっと中を覗いた。ショーケースを、まるで魚を品定めするかのように真剣な眼差しで眺める源蔵。彼の、太く節くれだった指が示したのは、一際重厚な輝きを放つ、プラチナの喜平ネックレスだった。俺が今、ポケットに隠し持っている、まさにそのネックレスと寸分違わぬものだった。 店員とのやり取りが、ガラス越しに微かに聞こえてくる。 「…かなりの額になりますが、よろしいですか?」 「ああ、構わねえ。分割で頼む。一番いいやつをくれ」 「何か、特別な記念でございますか?」 源蔵は少し黙った後、照れくさそうに、しかしはっきりと答えた。 「…まあな。息子の…いや、家族のための、お守りみたいなもんだ」 源蔵は、汗水たらして働いた金と、釣りで釣った魚を市場で売って貯めたなけなしの金を合わせ、途方もないローンを組んで、そのネックレスを買おうとしていた。自分が見栄で身につけるためではない。「家族のためのお守り」。その言葉が、冷たい錐のように俺の胸に深く突き刺さった。 **第二章:すれ違う想い** ネックレスの契約から数日後、俺は源蔵の家に招かれた。「でかいカレイが釣れたから、お前にも食わせてやる」という、彼にしては珍しく、そして嬉しい誘いだった。緊張しながら、彼が住むという古びた木造アパートの階段を上る。ぎしぎしと鳴る床が、昭和という時代の重みを伝えてくるようだった。 ドアをくぐると、そこには俺がアルバムでしか見たことのない、昭和の生活が凝縮された空間があった。ちゃぶ台、チャンネルを回す式のブラウン管テレビ、黒電話。そして、少しむくれた顔で俺を迎えた、まだ少年特有の細い手足をした父、稔の姿が。 「…どうも」 稔は、俺を値踏みするような挑戦的な目で見ると、ぷいと横を向いて自分の部屋のふすまをぴしゃりと閉めてしまった。その拒絶の態度に、父と祖父の間に横たわる、深く、そして長い溝の始まりをまざまざと見せつけられた気がした。 台所では、祖母の春子(はるこ)が人の良さそうな笑顔で迎えてくれた。 「まあ、カイトさん。いらっしゃい。いつも主人がお世話になってます。あんな人だけど、あんたみたいな若い釣りの友達ができて、本当に嬉しそうなんですよ。家に帰ってきて、あんたの話ばっかり」 そう言って笑う顔は、生活の苦労を感じさせない、ひまわりのような明るさに満ちていた。この人がいたから、あの不器用な二人の男がいても、この家はなんとか成り立っていたのだろう。 その日の食卓は、源蔵が釣った肉厚なカレイの煮付けと刺身、春子の作った具沢山の豚汁が並ぶ、ささやかながらも心づくしの馳走だった。しかし、そこに稔の姿はなかった。何度春子が呼んでも、「塾の宿題があるから」と部屋に閉じこもったまま、出てこようとしない。 「稔の奴、またすねてやがる」 源蔵は苦々しげに呟き、コップ酒をぐいとあおった。 「親父が釣りばっかりで、遊んでくれないってな。馬鹿野郎め。誰のために、毎日毎日、好きでもねえ仕事で頭下げて、海に出てると…」 そこまで言って、源蔵はぐっと言葉を飲み込んだ。春子が、そんな彼を諭すように、そして俺に詫びるように、悲しそうな顔で首を横に振る。 食事が終わった後、俺は手洗いを借りるふりをして、稔の部屋の前に立った。中から、友達と電話で話しているらしい声が漏れてくる。黒電話の子機だろうか、少し声がくぐもっている。 「だからさ、うちの親父、また釣りだよ。日曜の野球の試合、応援に来るって約束したのに、すっぽかしだぜ。信じらんねえよ」 「へえ、大変だな」 「この前なんかさ、宝石屋の袋、見ちまったんだ。すげえ高いネックレス買ってたんだぜ、ローン組んで。どうせ自分で着けて見栄張るためだろ。俺たちのことなんか、どうでもいいんだよ、きっと。野球の応援より、ネックレスの方が大事なんだ」 違う。そうじゃない。俺は叫びたかった。あのネックレスは、お前たち家族のためのお守りなんだ。日曜の試合に行けなかったのも、きっとそのローンのための休日出勤か、何かよんどころない事情があったに違いない。だが、過去に干渉してはいけない。俺は唇を噛み締め、その場を離れるしかなかった。この誤解は、俺が生まれるよりもずっと前から始まっていたのだ。 食卓に戻ると、源蔵が、桐の箱を大切そうに取り出していた。中には、あのプラチナネックレスが、店の照明の下で見た時よりも落ち着いた、しかし確かな存在感を放って鎮座している。彼はそれを身につけることなく、ただじっと、指でなぞるように眺めていた。その表情は、満足気でもあり、どこか寂しげでもあった。 「源さん…それは?」 俺が尋ねると、源蔵は少し照れたように言った。 「ああ、これか。…男の甲斐性ってやつだ。俺みてえな人間にゃ、この釣り竿くらいしか、あいつに残せるもんがねえ。だが、それじゃあ、いつか腹の足しにもならなくなる。こいつは、プラチナだ。金みてえに派手じゃねえが、価値はそうそう変わらねえ。もし、この先、俺の体に何かあった時、家族にどうしようもないことが起きた時…こいつが、あいつらを助けてくれるかもしれねえ。俺が家族にしてやれる、たった一つの保険みてえなもんだ」 彼は、この重いプラチナの塊に、家族への不器用な愛情と、未来への切実な願いをすべて託していたのだ。しかし、その海よりも深い想いは、すぐ隣の部屋にいる息子の稔には全く届いていない。それどころか、父親の自分勝手さと裏切りの象徴として、彼の柔らかい心を深く傷つけていた。 なんて悲しく、救いのないすれ違いだろう。父、稔が大人になっても抱き続けた祖父への誤解と確執。その原点を、俺は今、目の当たりにしていた。父が「家族を顧みない人だった」と吐き捨てた時、その瞳の奥に宿っていた深い悲しみの意味が、ようやくわかった気がした。彼は、愛されていないと感じていたのだ。本当は、誰よりも深く、不器用に愛されていたにもかかわらず。 その夜、安宿の万年床で、俺はなかなか寝付けなかった。ポケットの中のネックレスが、まるで源蔵の届かない想いの塊のように、ずしりと重かった。俺はこのネックレスに導かれてここに来たのだとしたら、何かすべきことがあるのではないか。この悲しい誤解の連鎖を断ち切り、二人の心を繋ぎ直すことが、未来から来た孫である俺の役目なのではないか。 しかし、どうやって?未来から来た人間が、過去に介入することの危険性は計り知れない。バタフライエフェクト。俺の一つの行動が、歴史を、俺自身の存在すらも消し去ってしまうかもしれない。恐怖と使命感の間で、俺の心は激しく揺れていた。 **第三章:幻の魚** 俺がこの時代に来てから、一ヶ月が経とうとしていた。季節は秋から冬へと移り、護岸を吹き抜ける風も日増しに冷たくなっていた。源蔵との釣りは、もはや俺の日常の一部となっていた。彼は、俺に一つの夢を、まるで秘密を打ち明けるように語ってくれたことがあった。 「この湾にはな、昔から漁師の間で言い伝えられている主がいるんだ。『銀色の皇帝』って呼ばれてる、メーター超えの真鯛だ。その魚体はまるで磨き上げた白金のようで、尾びれを一度振れば、小舟くらい簡単にひっくり返されるって話だ。俺の親父も、そのまた親父も、生涯をかけてそいつを追い求めたが、誰も釣り上げることはできなかった。幻の魚さ」 源蔵の目は、いつもの鋭い光ではなく、物語を語る少年のようにきらきらと輝いていた。 「俺はな、いつかそいつを釣り上げて、稔に見せてやりてえんだ。親父はすげえだろって、胸を張ってな。言葉で言っても伝わらねえなら、生き様で見せてやるしかねえ。あいつに、俺の背中を見せてやりてえんだ」 それが、彼が海に出続ける、もう一つの、そして最大の理由だった。家族を養うため、そして、息子に父親としての威厳と愛情を示すため。あまりにも不器用で、あまりにも遠回しな愛情表現だった。 そして、その日は、何の変哲もない平日の夜に、突然やってきた。満月の大潮。海は不気味なほど静まり返り、月光が水面を銀色の絹のように照らしていた。 「今夜だ。今夜、奴は必ず来る。俺の勘がそう言ってる」 仕事を終えた源蔵は、いつになく興奮した声で俺を呼び出した。彼の全身から、ただならぬ気迫が立ち上っている。俺たちは、いつもの護岸ではなく、彼がなじみにしている漁師から古い伝馬船を借りて、沖に出た。 夜の海は、昼間とは全く違う顔をしていた。漆黒の闇がすべてを飲み込み、自分たちがどこにいるのかさえわからなくなる。頼りになるのは、船の小さなランプの灯りと、長年の経験で培われた源蔵の、動物的なまでの勘だけだ。彼は星の位置と、遠くに見える工場の灯りを頼りに、船をポイントへと進めていく。 「ここだ」 アンカーを下ろすと、源蔵は特別な仕掛けを取り出した。ハリスは通常では考えられないほど太く、針も巨大だ。餌は、彼がこの日のために生かしておいた、特大の活き車エビだった。 「一発勝負だ。こいつを食う奴がいたら、それは皇帝しかいねえ」 仕掛けを投入し、待つ。時間が、張り詰めた釣り糸のように、ぴんと引き伸ばされていく。永遠にも思える沈黙の後、その時は来た。 前アタリも何もなく、いきなり源蔵の竿が、ありえない角度で海面に突き刺さった。竿受けに固定していたにもかかわらず、竿が根本からへし折れんばかりにしなっている。リールから、焼けるような音を立てて、ものすごい勢いで糸が引き出されていく。けたたましいドラグ音が、夜の静寂を切り裂いた。 「来たぞ、カイト!でけえ…!こいつは、間違いねえ!皇帝だ!」 源蔵の顔が、興奮と緊張で引き締まる。ここから、人間と、海の主との、壮絶な死闘が始まった。 それは、もはや釣りではなかった。まさしく、闘いだった。竿を両手で掴み、全体重をかけて耐える源蔵。船がぎしぎしと音を立て、魚に引きずられてゆっくりと動き出す。一進一退の攻forが、何十分も続いた。源蔵の額には玉の汗が浮かび、腕の筋肉が鋼のように隆起している。息は荒く、肩で呼吸をしている。それでも彼は、決して主導権を渡さなかった。 「くそっ、根に潜りやがる!カイト、船を動かせ!」 源蔵が叫ぶ。俺は慌ててエンジンをかけ、彼の指示通りに船を操作し、魚を根から引き離す。今度は魚が船の周りを旋回し始めた。俺たちの小さな船が、まるで木の葉のように翻弄される。 一時間以上が経過しただろうか。源蔵の体力も限界に近いはずだった。しかし、彼の眼光は少しも衰えていなかった。むしろ、その輝きは増しているようにさえ見えた。やがて、怪物のようだった魚の引きが、ほんの少しだけ弱まった。 「今だ…!勝機はここしかねえ!」 源蔵は最後の力を振り絞り、渾身の力でリールを巻き始めた。 「カイト!タモを用意しろ!」 源蔵が叫ぶ。俺は船に備え付けられていた、マグロ漁にでも使うのかというほど巨大なタモ網を手に、船べりでその時を待った。やがて、水面に巨大な影がゆらりと浮かび上がった。月光を浴びて、その魚体は神々しいまでに銀色に輝いていた。それは、俺が今まで見たどんな魚よりも大きく、荘厳で、美しかった。まさしく、「銀色の皇帝」だった。 最後の抵抗を見せる魚を、源蔵がいなし、船べりまで引き寄せる。 「今だ!」 俺は全身の力を込めて網を水中に入れ、魚体をすくい上げた。ずしりとした、生命の重みが腕に伝わる。一人では持ち上がらず、源蔵も手を貸し、二人でようやく船の甲板に引きずり上げた。横たえられた真鯛は、優に1メートルを超えていた。その威容に、俺も源蔵も、しばらく言葉を失った。 「…やった…やったぞ…!」 源蔵は、膝から崩れ落ちるように甲板に座り込んだ。その目には、涙が浮かんでいた。何十年にもわたる、いや、何代にもわたる高橋家の男たちの夢が、今、叶ったのだ。 「これで…稔に…胸が張れる…親父は、嘘つきじゃなかったって…証明できた…」 その、疲れ果て、しかし達成感に満ちた祖父の姿を見て、俺は決意した。歴史がどうなろうと、俺自身の存在がどうなろうと、もう構わない。この男の、この純粋で、あまりにも切ない想いを、息子の元へ届けなければならない。それが、俺がこの時代に呼ばれた、唯一無二の理由なのだから。 **第四章:繋がる時** 港に戻った俺たちは、祝いの杯を交わした。源蔵は、幻の魚を前にして、子供のようにはしゃぎ、飲み屋の主人や常連客に何度も武勇伝を語って聞かせた。誰もが、その偉業を心から称賛した。その輪の中心で誇らしげに笑う祖父の姿を、俺は少し離れた席から眩しく見ていた。 宴が終わり、二人で夜道を歩く。源蔵の足取りは少し覚束なかったが、その顔は満足感に輝いていた。俺は、アパートへの分かれ道で、彼を呼び止めた。 「源さん。話があるんだ」 俺の真剣な声に、源蔵の酔いが少し覚めたようだった。俺は、意を決して、ジャケットの内ポケットからプラチナのネックレスを取り出した。 「源さん。これは、あんたが持っているべきだ」 俺はネックレスを源蔵の前に差し出した。街灯の光を浴びて、それは冷たい輝きを放つ。源蔵は驚いたように目を見開いた。 「カイト…どうして、お前がそれを…。俺が買ったものと、同じ…いや、これは…」 彼の声が震えていた。俺が未来から来た孫であることに、彼はまだ気づいていない。しかし、このネックレスが、彼がローンを組んで買ったものと寸分違わぬことには、すぐに気づいたようだ。 俺は、震える声で、すべてを話すことにした。自分が誰で、どこの時代の人間なのか。このネックレスが、時を超えて彼の想いを俺に伝え、俺をこの時代に導いたこと。そして、未来で、彼の息子である稔が、彼のことを誤解したまま、心を閉ざして生きていること。 源蔵は、黙って俺の話を聞いていた。彼の表情は、驚きから困惑へ、そして深い悲しみへと変わっていった。俺が、未来の稔の言葉、「家族を顧みない人だった」という一言を伝えた時、彼の頑丈な肩が、小さく震えた。 「そうか…稔は、そんな風に…俺のことを…思ってたのか…」 彼の足元のアスファルトに、ぽつ、と雫が落ちた。 「俺は、ただ…不器用だっただけなんだ。親父もそうだった。どうやって愛情を伝えていいか、わからなかった。だから、海に逃げた。魚を釣って、金を稼いで、家族に楽をさせてやることしか、思いつかなかったんだ…。試合の応援だって、行きたかった。でも、その日はどうしても外せない仕事が入っちまったんだ。ローンの支払いのために…」 彼の目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。それは、幻の魚を釣り上げた時の嬉し涙とは違う、悔恨と愛情が入り混じった、温かい涙だった。 「源さん、まだ間に合う。今からでも、稔さんにちゃんと話してやってくれ。言葉で、あんたの想いを伝えてやってくれ。あの魚を見せて、親父の背中を見せてやってくれ」 俺は必死に訴えた。 源蔵は、何度も何度も、深く頷いた。そして、俺の手からネックレスを受け取ると、自分のアパートの部屋から、もう一つの、彼自身が買ったネックレスを桐の箱ごと持ってきた。二つのネックレスが、彼の掌の上で、同じ輝き、同じ重みを持って並んでいる。 「カイト。いや、海斗。わしの、孫よ。信じられねえ話だが、お前がここにいることが、何よりの証拠だ。よく、ここまで来てくれた。ありがとう」 源蔵は、俺の手を固く、固く握りしめた。その手は、潮と魚の匂いがした。ごつごつとして、温かい、俺の知る祖父の手だった。 その時、俺が昭和に来た時に持っていた、あのデコポンが、ポケットの中で淡い光を放ち始めたのに気づいた。夜明けの光が、東の空から差し込んできたのだ。 「時間だ。帰る時が来たんだ」 俺は直感的に悟った。寂しさと、安堵が同時にこみ上げてくる。 「じいちゃん…」 俺は初めて、彼をそう呼んだ。源蔵の目が見開かれ、そして優しく細められた。 「父さんのこと、頼んだぞ」 「ああ、任せておけ。今度こそ、間違えねえ。ちゃんと、あいつと向き合う。言葉で、体で、全部伝えてやる」 源蔵は、力強く言った。その顔には、もう迷いはなかった。 俺は、彼が買った方のネックレス…つまり、本来この時代に存在するはずのネックレスを、デコポンの上に乗せた。俺が未来から持ってきたネックレスは、源蔵の掌の中に残る。時を超えた二つのネックレスが、ここで入れ替わるのだ。 「じいちゃん、これを稔さんに渡してくれ。そしていつか、親父から俺に渡るように、伝えてくれ」 「わかった。必ず、そうする」 夜明けの光がネックレスに集束し、世界が再び白い光に包まれた。 「達者でな、海斗!お前は、俺の誇りだ!」 遠ざかる意識の中で、祖父の最後の、力強い声が聞こえた。 **終章:令和の夜明け** 気がつくと、俺は元の護岸に尻餅をついていた。目の前には、見慣れた、しかしどこか違って見える令和の東京湾が広がっている。空は白み始め、新しい一日が始まろうとしていた。あの重苦しかった空気は、もうどこにもない。 足元には、少し萎びたデコポンが一つ転がっている。しかし、その上にあったはずのネックレスは、どこにもなかった。俺は慌てて自分の首に手をやった。そこには、確かにあのプラチナの喜平ネックレスが、昭和の夜明けの光を吸い込んだかのように、確かな温もりを持ってかかっていた。 俺が持ってきたはずのネックレスは、昭和の時代に、源蔵の手に渡ったのだ。そして、俺が今しているこのネックレスは、源蔵が俺のために、未来の俺に託してくれたものなのだ。時を超えた二つのネックレスが、入れ替わった。それは、祖父と孫の間で交わされた、確かな約束の証だった。 重量50.71g。その重みは、もう俺の心を縛るものではなかった。それは、祖父の不器用で、しかし海のように深い愛情の重みであり、俺が未来へ向かって生きていくための、力強い錨だった。 俺は、護岸から立ち上がると、一直線に実家に向かった。早朝にもかかわらず、父の稔は起きていた。新聞を広げているその背中は、昔よりも少し小さく見えた。 「どうした、海斗。こんな朝早くに。また夜遊びか?」 怪訝そうな顔をする父の前に、俺は正座した。 「親父、じいちゃんのこと、話があるんだ」 俺は、昨夜体験した、信じがたい出来事を、順序立てて、すべて話した。タイムスリップのこと、若き日の源蔵と出会ったこと、彼がどんな想いで釣りをし、あのネックレスを買ったのか。野球の応援に行けなかった本当の理由。そして、幻の魚『銀色の皇帝』を釣り上げた、あの壮絶な夜のこと。 最初は「寝ぼけているのか」「頭でも打ったか」と相手にしなかった父も、俺の真剣な語りと、俺が語る細部のリアリティに、次第に表情を変えていった。俺が、父も知らないはずの、幼い頃の父と祖父の間の出来事…例えば、春子さんがこっそり源蔵の弁当に入れていた好物のことなどを語るに及んで、彼の目には信じられないという色が浮かんだ。 そして、俺は首のネックレスを外し、父の手にそっと乗せた。 「これは、じいちゃんからの伝言だ。『家族のためのお守りだ』って。あんたと、家族のための。そして…『あの日は、悪かった』って」 ネックレスの重みが手のひらに伝わった瞬間、父の長年固く閉ざされていた心のダムが決壊した。その目から、大粒の涙がとめどなく溢れ出した。それは、何十年もの間、心の中に溜め込んできた、父への思慕と、誤解していた自分への後悔、そして、ようやく父の愛を理解できた喜びが入り混じった、複雑な涙だった。 「そうだったのか…親父…そうだったのか…!あの人も…苦しんでたのか…!」 父は、子供のように声を上げて泣いた。俺は、その震える背中をただ黙ってさすり続けた。時を超え、祖父の想いが、ようやく息子に届いた瞬間だった。 数週間後。 雲一つない、晴れ渡った週末の朝。俺と父は、あの護岸に並んで立っていた。父の手には、源蔵が使っていた、あの飴色の竹の和竿が握られている。それは父が、物置の奥から大切そうに出してきたものだった。俺の首には、プラチナのネックレスが、朝陽を浴びて誇らしげに輝いていた。 「親父が夢枕で言ってたよ。『今日の潮は、底から少し切った方がいい』ってな」 父が、少し照れくさそうに、冗談めかして言った。 「ああ。じいちゃんから、俺もそう教わった」 俺たちは顔を見合わせて笑った。ぎこちなかった親子の間に、確かな絆が生まれたのを感じた。 仕掛けを投げ込むと、穏やかな海が、優しくそれを受け入れてくれた。隣に立つ父の横顔は、いつの間にか、俺が昭和の海で見た、不器用で、孤独で、しかし誰よりも家族を愛していた祖父・源蔵の顔と、確かに重なって見えた。 もう、ここには閉塞感も、虚しさもない。ただ、穏やかな潮騒と、未来へと続く静かな時間があるだけだ。俺は新しい仕事を探し始めた。まだ小さな一歩だが、もう空転している感覚はない。 俺の首にかかるプラチナの喜平ネックレスは、決して冷たい金属の塊ではない。それは、祖父から父へ、そして父から俺へと受け継がれていく、三代にわたる男たちの不器用な愛の物語。その温かい重みを胸に、俺は新しい人生の一投目を、希望に満ちた令和の海へと、力強く投げ込んだ。アタリは、すぐそこに来ている気がした。
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