
明治から昭和20年までの間、陶芸界から僅か五名しか任命されなかった帝室技芸員の一人、初代宮川香山(真葛香山)の釉下彩鳳凰文辰砂釉大花瓶 を出品致します。
初代香山は、横浜に開窯した明治初期には薩摩焼技法を基に考案した高浮彫技法の作品が明治9年のフィラデルフィア万博で絶賛され、一世を風靡しました。しかし、高浮彫は製作リードタイムが長かったため、当時の最先端の技法であった釉下彩の作品に主軸を次第に移していきました。従って、明治10年代が高浮彫の時代とすれば、明治20年代から30年代は、こうした釉下彩の優品を多く産み出していった時期にあたります。ただ、明治37年前後には、釉下彩と初期の高浮彫を融合させた作品も製作しています。(関和男氏著「宮川香山釉下彩」P.46 ・47参照)
さて、本作を見ますと、裏返しになった蓮の葉に小さな蛙が乗っているという、いかにも香山らしい洒脱な意匠です。手捻りで丁寧に造形された蓮や蛙は、明治10年代の初期高浮彫作品を彷彿とさせます。一方で、京薩摩風の陶土ではなく、薄瑠璃釉を施した磁体は後期の作風です。銘を見ると、明治37年頃に使用された「真葛窯香山製」の各種銘の中のBグループの「香山」書体に合致しています。(上掲書P.99参照) 本作の銘が珍しいのは、明治37年の「真葛窯香山製」の銘が染付銘であるのに対して、本作では、同じ書体の刻銘になっていることです。この刻銘は見たことがありません。
香山自身が語っている通り、香山は同じ作品は三つ以上作成していません。香山のこの作品製作方針に加えて、このような手捻りの高浮彫磁器作品は難易度が高いため、本作と同手の作品は他に見たことがありません。
本作は書の硯に水を加えるための水滴として製作されたものです。高さ8cm、長さ10cmの小品ですが、写真でご確認頂ける通り、極めて精巧に製作された優品です。過去に同様の作品が出品されたことはありませんし、美術館にも収蔵されていません。
作品の保存状態は極めて良く、ほぼ未使用の新品と言っても良い状態です。当然、ヒビ・カケ・ワレなどの瑕疵は全くありません。
尚、最近、私の写真やこの説明文をそっくりそのまま盗用して、格安で販売しますという詐欺サイトがいくつかあるようですので、ご注意下さい。過去に私がそのような詐欺サイトに出品していると勘違いされた方から、酷い罵詈雑言を浴びたことがありますが、私はオークションサイト以外には出品しておりません。
私は、明治陶磁器に関するブログも書いていますので、宜しかったら、ご覧ください。
https://karatsu.hatenadiary.com/
また、コレクションをPinterestというSNSにもアップしていますので、併せてご覧頂ければ幸いです。
https://pin.it/6RGCc3JFh
(2025年 10月 4日 16時 48分 追加)本作は、アメリカの高名な環境弁護士Henry V. Nickel氏の遺品です。
1943年生~2025年3月20日没
シカゴ生まれ。法学士(J.D.)はジョージワシントン大学法科大学院で取得(1968年)
多くの環境規制(大気清浄法 “Clean Air Act” 等)関連の規制制定プロセスに於いて、環境法領域での訴訟・法令運用に影響を与えた人物と評価されていました。